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2017年5月28日 (日)

『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』を見た

最近、やたらに美術館や画家や彫刻家をめぐる映画の公開が増えた。いわゆる映画ファンが減るなかで、もっと裾野の広い美術ファンを何とか取り込もうという算段のような気がして、最近はあまり見ていない。『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』を見たのは、配給会社から連絡があったから。

試写には行けなかったが、パンフレットまで送られてきたので劇場に行ってみた。何よりも、ずっと前に行ったエルミタージュ美術館が懐かしかったこともある。

私が初めて企画した映画祭「レンフィルム祭」が成功に終わり黒字も出たので、サンクトペテルブルグのレンフィルムにお礼に行くことになった。1993年の今頃か。レンフィルムの女性プロデューサーの娘さんが日本文学の専攻で、エルミタージュ美術館に連れて行ってくれた。

彼女は美術館の東洋美術部で研究もしていたので職員用の通路などを熟知しており、「有名な絵を10点ほど見せましょう」とあちこちのドアを開けて1時間ほどでダ・ヴィンチやレンブラントやカラヴァッジョなどを見せてくれた。当時はソ連崩壊後間もないため、美術館は閉まっている部屋も多かったし、電気がついていない場所もあった。とにかく巨大な幽霊屋敷のようだった。

さてノスタルジアはこのくらいにして映画に戻ると、一番衝撃だったのはナチスドイツの侵略に備えて、美術品を避難させる場面。絵を剥ぎ取った何もない額が、ずらりと並んでいた。普通は絵を運ぶときに額は外さない。絵を痛めるからだ。

ところが映画のシーンではすべて額を取っていた。たぶん小さくするために、無理にも額装を外して丸めたのだろう。想像するだに悲しくなる。もともとこの美術館は、20世紀になって何度も作品を移動させられている。第一次世界大戦の時と直後のロシア革命の時と第二次世界大戦の時で、これらがこの映画には克明に描かれている。

さらに1930年代には、ソ連政府は外貨不足対策で、アメリカの富豪のアンドリュー・メロンに200点を超す絵画を売っている。これはもちろん今のナショナル・ギャラリーにあって、映画ではその絵も出てくる。18世紀後半に美術館を作ったエカテリーナ2世がイギリスから買ったコレクションを、最近になって一度だけ持ち主の子孫の城に貸し出して展覧会をやるシーンもあった。

第二次大戦後、ソ連はドイツに略奪された絵画を返還させ、さらにドイツ所有の名画まで没収したという。この映画を見ていると、美術というものが権力や富といかに結びついているかが浮かび上がる。そもそもエカテリーナ2世が自国ではなく西洋の絵画や彫刻を集めたのは、西洋に対してその財力や見識をひけらかすためなのだから。

ロシア人スタッフが作った、ある意味では美術館の宣伝のようなドキュメンタリーだが、考えることは多かった。

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