« 3度目の『ジュリエッタ』 | トップページ | とにかく三池崇史だから »

2017年5月 8日 (月)

仏大統領選の時に読んだ『服従』

フランスの大統領選の結果は出たが、その直前に読んでいたのが、ミシェル・ウェルベックの『服従』。2022年の大統領選を背景に、ある40代の大学教授の「服従」を描いた近未来小説だが、フランスで出版されたのがシャルリ・ヘブド襲撃事件が起こった2015年1月7日だったこともあって、大騒ぎになった。日本でもすぐに翻訳が出て、最近文庫になった。

フランスの大統領の任期は5年なので、描かれた時代は今回の1つ先の選挙になる。小説の中では、2017年の選挙では第一回投票で社会党のオランド大統領と国民戦線のル・ペン党首が残り、決選投票でオランドが2期目の大統領となっていた。

実際はオランドは支持率が低すぎて社会党の候補にさえなれず、その代わりに出たアモンも保守の共和党のフィヨンも第1回投票で落ちてしまった。2大政党が残らず、ル・ペンと投資会社出身のマクロンが戦ったわけだから、現実はこの小説よりも先に行ってしまった。

そして小説の2022年の選挙では、第1回選挙で社会党はイスラーム同胞党に僅差で負けてしまい、ル・ペンとイスラーム党のベン・アッベスの決選投票となった。イスラーム党は社会党や共和党と政策協定を結び、ベン・アッベスが大統領となる。

決選投票の日に20数カ所の投票所で暴動が起きて、投票箱が盗まれた。選挙は翌週にやり直しとなるが、主人公はパリを避けてスペイン国境で数日を過ごす。選挙が終わってパリに戻るとソルボンヌ大学はアラブ資本の注入でソルボンヌ・イスラーム大学となり、主人公は解雇されていた。

それでも65歳まで勤め上げた時にもらう年金と同じ額を、終生補償する内容の手紙に驚く。同僚のスティーヴは、イスラム教に改宗して新大学のポストで3倍の給料をもらうようになった。無職となった主人公は、父の死をきっかけに田舎に帰り、そこから修道院へ向かう。

しかし修道院の数日は何ももたらさず、またパリに戻る。そして出版社からのユイスマンス全集の監修を引き受けたのをきっかけに新学長と会い、改宗して教授として残ることを受諾する(小説は「するはず」で終わるが)。

学長は言う。「『О嬢の物語』にあるのは、服従です。人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力をもって表明されたことがなかった。それがすべてを反転させる思想なのです」

「背徳の作家」ユイスマンスを専門として、結婚せずに毎年女子大生と関係を持って自由に生きてきた大学教授が、政権が変わると結局は「服従」する。今の自分とは全く違う環境のはずなのに、ひどくリアルに思えた。

|

« 3度目の『ジュリエッタ』 | トップページ | とにかく三池崇史だから »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/65246539

この記事へのトラックバック一覧です: 仏大統領選の時に読んだ『服従』:

« 3度目の『ジュリエッタ』 | トップページ | とにかく三池崇史だから »