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2017年5月 2日 (火)

『夜の谷を行く』にやられる

最近読んだ本で、村上春樹の新作よりも何よりもおもしろかったのは、桐野夏生の『夜の谷を行く』。たぶんどこかの書評で読んで、連合赤軍事件に当時関わった女性の現在の話と聞いて、読みたいと思った。桐野夏生だし。

もともと私は学生運動の話が好きだ。小説でも映画でも。日本の日大や東大の闘争の話も、フランスやドイツやイタリアの話も興味がある。映画では、日本の『実録 連合赤軍』もイタリアの『夜よ、こんにちは』もドイツの『バーダー・マインホフ』も大好き。

『夜の谷を行く』を読んでみたら本当に大当たりで、少なくとも去年の秋にパリから戻って読んだ本で、一番おもしろかった。主人公は、かつて連合赤軍事件に関わって5年間刑務所にいた63歳の啓子。長年塾を経営していたが、最近は閉じてスポーツクラブに行くのが日課の静かな生活を送っている。

ところが連赤の主犯と見なされ、死刑判決を受けていた永田洋子の獄死のニュースを知ったあたりから、過去が亡霊のように蘇る。つながりのある唯一の家族である妹の娘が結婚することになり、自分の過去を伝えるべきか悩み、かつての仲間からフリージャーナリストが取材を希望していることが伝えられ、昔の同棲相手と会うことになる。

妹以外の親戚からは縁を切られ、仲間との連絡も断ち、できるだけ目立たない格好をして日々を過ごしていたのに、40年前の「不祥事」(妹の言葉)の痕跡があちこちに見えだす。そうすると、スポーツクラブで話しかけてくる女にさえもバレているのではないかと思う。

オウムの事件などもそうだが、若い時に世間を揺るがした大事件に関わった人々のその後というのは、中心となった人々以外はあまり知られていない。実際は啓子のように、親戚に縁を切られて、過去を隠しながらひっそり生きているに違いない。読んでいてその切なさに涙が出てくる。

妹のちょっとした会話にいきり立つ。「あたしのことで皆に迷惑をかけて悪かった、と今でも思っているわ。でも四十年も前のことなのよ。いい加減、勘弁してほしい」。妹から、父が実は自分の事件を苦にした自殺同然だったことを突然聞かされて、愕然とする。

一緒にアジトを逃げた女性との40年ぶりの再会も泣けてくるが、一番はラストの2ページ。とんでもない真実が飛び出して、驚きながら涙を流す。この数日、その瞬間の映像が頭の中を巡っている。ぜひ映画化して欲しいと思ったが、連赤の40年後の暗い後日談を見たい人はいないか。

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