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2017年5月18日 (木)

『彼女の人生は間違いじゃない』の強烈さ

7月15日公開の廣木隆一監督『彼女の人生は間違いじゃない』を見た。映画全体から強烈な何かがほとばしる力作だった。カンヌ国際映画祭が始まったが、本当ならこれこそカンヌに出て欲しかった。河瀬直美監督の『光』よりも。

廣木監督の映画はいつもおもしろいが、これまではどこかに一般向けの娯楽作品を意識しているところがあった。今回は、最初から最後まで息の抜けない真剣勝負のようだ。

主人公は福島県いわき市に住む公務員みゆき(瀧内公美)で、週末には高速バスに乗って東京のデリヘリで働く。そこには彼女をホテルに送り、危ない時に助ける役の三浦(高良健吾)がいた。みゆきは父親(光石研)には英会話を学んでいると嘘をつく。父は地震で母が亡くなってから、農業をやめて補助金でパチンコ暮らし。

みゆきの同僚の新田(柄本時生)は、行きつけのバーで東京から被災地をテーマに卒論を書く女子大生に会って狼狽する。彼の父親は津波で工場を失くして、補助金をもらってなにもしていなかった。母は新興宗教に騙されて家を出て、弟の面倒を見ている。

みゆきも新田も公務員なのだから、いい方かもしれない。それでも父親たちはこれまでの仕事を奪われて、立ち直れない。みゆきはデリヘリに行かなくても暮らせるのかもしれないが、たぶん心の闇がそこに向かわせる。市役所では明るい公務員に見える新田も、実は暗い闇を抱えている。

東北の震災と福島原発の事故があって、東京の電力が東北に頼っていたことを知った。それから6年がたって、その「搾取」はさらに進んでいるのではないか、被災者の「闇」はさらに深くなっているのではないか。そんなことを考えさせる映画だった。

みゆきの住む大きな駐車場付きの仮設住宅、彼女が運転する車の窓に映る荒涼とした風景、海岸の向こう側に見える半分壊れた原発の施設、光石研演じるみゆきの父親が訪ねる帰宅禁止地域のかつて住んだ家など、ドラマの間に見える景色も強烈に迫ってくる。

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』と並んで、2017年の日本の若者に漂う空気感を見事に表した映画となるだろう。この映画が、これからロカルノやベネチアにぜひ行ってほしい。

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コメント

古賀先生、ご無沙汰しております。
何とか四年生になることができました。笑
廣木監督の新作やはり凄いのですね。
確か『ストロボ・エッジ』から突然ラブコメ漫画の実写化に乗り出した廣木監督ですが、
他のラブコメ作品にはない画面の強さを感じていました。特に長回しには役者の芝居を丸ごと捉えながら、
戸外撮影の生々しさを存分に現出する手応えがあったように思います。
そんな廣木監督が撮り上げた渾身の一作、早く劇場で観たいものです。

投稿: 加賀谷 健 | 2017年5月29日 (月) 20時30分

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