『追憶』の古めかしい魅力
最近、九州に住む姉の1人はかなり映画を見ている。近くの「イオンモール」のシネコンに通っているので、東京と同じものが見られる。降旗康男監督の『追憶』がよかったというので、私も見に行ってみた。
確かに泣けたけれども、物語も演出も全体にちょっと古めかし過ぎはしないか。松本清張原作の『砂の器』(映画は74年)を思い出してしまった。
30代の3人の男たちは、25年前の北陸で小学生の頃のとんでもない秘密を共有していた。ある時偶然にその3人が再会することで、その過去が蘇ってくる。
冒頭に、その秘密が白黒に近い映像で見せられる。それぞれ親に捨てられた3人は、「ゆきわり草」という名の喫茶店で涼子(安藤サクラ)に育てられていた。彼らは涼子に関係を強いる男を殺そうと決心する。
25年後、刑事となった篤(岡田准一)は妻とは別居状態で、母はアル中。彼が偶然に3人の1人の悟(柄本祐)と再会するが、その翌日に悟は殺される。悟がもう1人の仲間の啓太(小栗旬)と会う予定だと聞いていた篤は、啓太を疑い、会いに行く。悟は東京でガラス屋を営んでいたがうまくいかず、啓太は北陸で土建屋を経営しもうすぐ生まれる子供を待ち望んでいた。
『砂の器』のように、過去を葬り去るための殺人かと思いきや、事件は意外な結末を迎える。3人の黒歴史は闇の中に再び納まる。アレッ、これでいいのと思った観客も多いのではないか。
不幸な生い立ちと忘れたい過去があり、それを25年後もみんな引きずって闇を抱えながら生きている。いかにもありそうな物語ではあるが、今の日本はどこにも見えない。原案・脚本は青島武、滝本智行で、サイトを見ると彼らが数年前に書いたオリジナル脚本に降旗監督が手を入れたようだが。
演出は重厚で、海に沈む太陽をじっくりとカメラに収め、雑草の間に咲く雪割草をくっくりと見せる。登場人物がいらだち、心を閉ざすさまがあらゆる角度から捉えられる。今年83歳の降旗監督と78歳の木村大作による円熟の演出ではある。
現在公開中の『夜空は最高密度の青色だ』や7月公開の『彼女の人生は間違いじゃない』のような映画を見たせいもあるが、この映画はずいぶん古めかしく思えた。
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