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2017年6月28日 (水)

ドゥパルドンの総集編としての『旅する写真家』

レイモン・ドゥパルドンは日本ではあまり知られていないが、私がかなり前から好きなフランスの写真家、映画監督である。9月に2012年の作品『旅する写真家』が公開になるというので、試写を見た。

彼の映画で日本で劇場公開されたのは、『モダン・ライフ』(2008)だけかもしれない。これは田舎の農民たちを淡々と撮った映画だった。その後に作られたこの作品は、これまでのあらゆる作品と作りが異なる。

彼の映画のほとんどはドキュメンタリーだが、そこでは監督本人がナレーションを務めたり、相手に話しかける。ところが今回の映画では、その役はパートナーのクローディーヌ・ヌガレだ。彼女は近年ドゥパルドン作品の製作を担当しているが、今回は共同監督としてクレジットされている。

さらに異色なのは、ドゥパルドンが過去に撮った映画をあちこちに挟み込んでいることだ。62年の実家の農場やパリ、63年ベネズエラ、66年中央アフリカ、67年ヨルダン、チリ、スエズ運河、68年ビアフラ、69年プラハなどなど。

このあたりから、ドキュメンタリー映画作品として残っている映像と重なりあう。最初の短編がプラハの春を弾圧するソ連軍に抗議して自殺した男をめぐる「ヤン・パラフ」。そして最初の長編がジスカール・デスタン大統領の選挙キャンペーンを追った「1974年のあるキャンペーン」。

報道写真家を追った「リポーター」(81)、パリの5区警察署の日常を見せる「三面記事」(83)、精神病院を写す「急患」(88)、冒頭に無言のネルソン・マンデラが出てくる「アフリカ、痛みはいかがですか?」(96)など。

この映画に出てくるのは、これまでの映画に使われなかったNG映像という説明だが、確かによりヤバい場面が挟み込まれるような気がする。そして一番おもしろいのは、ロメールの『緑色の光線』を8ミリで撮ったメイキング映像と共同監督のクローディーヌを追いかけた86年パリの映像で、これらは始めてみた。

28歳のクローディーヌは弾けるばかりに可愛らしい。気に入った女性を追いかけまわしている40代半ばの監督の姿が目に浮かぶよう。

こうした過去の映像と交互に出てくるのは、フランスの田舎を1人で車で巡って、無人の光景を大判の写真に収め、「あのタバコ屋はいいな」などとつぶやきながら、淡々と写真を撮りためるドゥパルドンの姿。

世界を駆け巡った過去の映像と、退屈なフランスの景色がどこかで呼応し始める。世界の周縁や細部に澄んだ青い目を向け、傍若無人に対象の前に立つドゥパルドンの姿がそこにある。そしてそれを手伝うクローディーヌの存在。

考えてみたら、彼が撮る田舎の写真の完成品は1カットも出てこない。世界と歴史と写真と映像をめぐる小さなしかし奥深い実験である。

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