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2017年6月11日 (日)

『静かなる情熱』の声を聴く

テレンス・デイヴィスという監督は、かつて『遠い声、静かな暮らし』(1988)という傑作で我々を驚かせた。繊細な語りの巧みさと共に、ふんだんに挟み込まれた歌の美しさに惚れ惚れした記憶があった。今回、久しぶりにこの監督の新作をやるというので、試写に出かけた。

7月29日の公開の『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』で、19世紀アメリカの女性詩人エミリ・ディキンスンの生涯を描いたものだ。

冒頭に、女子大生が先生に逆らうシーンが出てくる。信仰に関する質問への答えだが、彼女は自分の正直な感覚を押し通す。この場面を初めとして、彼女は妥協をせず、自分の意思をはっきりと述べる。そしてその表明自体が詩となって、映像に流れる。

エミリを演じるシンシア・ニクソンの声がいい。彼女の言葉は詩となり、画面に静かに響く。絶対的な孤独から吐き出された言葉は、部屋の中に閉じこもっていても、世界へと広がってゆく。

「自然は最も優しい母親である。どんな子供にもイライラしたりしない」「あなたの小さな胸に小川をお持ちですか」

クラシック音楽の演奏のシーンがあったり、歌曲が流れたりするのも快い。これが南北戦争時のアメリカとは思えないほど、全体に静かで落ち着いた雰囲気が流れる。

後半、父の死後、エミリは白い服を着るようになり、ほとんど部屋に閉じこもる。発作も激しくなる。その純粋さの追及は見ていて息苦しくなるけれど、彼女の優しい詩が流れるとホッとする。

私はこの映画の登場人物を見て、グリフィスの『国民の創生』(1915)を思い出した。これと同じ19世紀半ばから後半の南北戦争の時代を描いたものだが、リリアン・ギッシュたちの持つ高貴さをこの映画に出ているシンシア・ニクソンを初めとする家族たちも持っている。父親を演じるキース・キャラダインの品の良さもいい。

この監督の映画は、最近ほとんど日本で公開されていない。80年代後半から90年代にかけての「ミニシアター黄金時代」にはそれなりに有名だったのだが。どこかで特集上映をやらないものか。

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