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2017年6月 6日 (火)

『光』の思い入れとうまさ

公開中の河瀨直美監督『光』を試写で見たのは4月の始めだが、今日までアップしななかった。相変わらずの力作だけど、個人的には前作『あん』の方がずっといいと思ったから。カンヌは無理だと思っていたら、コンペに入ってしまった。

もちろん作品のレベルは高い。カメラや音は、これまで以上に繊細で申し分ない。何よりも主演の永瀬正敏が、乗り移ったような迫真の演技を見せる。だから心は動くのだけれど。

永瀬が演じるのは、弱視になった元有名カメラマン・中森。彼は視覚障碍者向けの「映画の音声ガイド」の制作を手伝うなかで、美佐子に出会う。彼女は音声ガイドの駆け出しだが、中森の不愛想な態度に腹を立てながらも、だんだん惹かれてゆく。

冒頭、映画館に入り、暗闇の中で音声ガイドのテストが始まる場面から始まる。このガイドのことは聞いていたけれど、目が見えずに映画を見る人々を見るのは初めて。思わず目を閉じて映画を「聞く」自分がいる。

何よりも、目の不自由な人々が揃って映画を「見る」姿に胸を打たれる。彼らの一部は上映後に美佐子を指導するが、その言葉や表情の一つ一つがリアル。そしてその代表が永瀬演じる中森。

最近は目が見えない、耳が聞こえないといった世界を描く映画が増えた。これは目の見えない人々に映画を届ける手伝いをしている人々を描くので、まさに今の時代のメタ映画。そのうえ、ガイドを準備している映画には、藤竜也演じる老いた監督が出ており、美佐子は実際に会ってアドバイスをもらう。

一方で美佐子の母は認知症で奈良の山の中で暮らす。時おりファックスが来ると、帰っては話す。美佐子が惹かれる中森は、夕日の美しいアパートで暮らす。美佐子はそこで見た写真の夕日の風景を見たくて、中森に連れて行ってもらう。

すべてが「光」という一文字に収斂してゆく。うまいと思いながらも、少し構成に無理があると思った。私は前作の『あん』はかなり好きだが、それはオリジナル脚本ではなく、物語がしっかりしているから。今度はまた監督の脚本のためか、思い入れとうまさが先行してしまったように思えた。

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