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2017年6月 8日 (木)

『ローサは密告された』の圧倒的迫力

最近は去年のカンヌやベネチアで見た映画を見直すことが多い。7月に公開されるブリランテ・メンドーサ監督の『ローサは密告された』も去年のカンヌで主演女優賞を取った。今回改めて見ると、何倍もよく見えた。

手帳をめくると、カンヌでこれを見た日は朝9時からアルモドバルの『ジュリエッタ』、ブラジル映画『アクアリウス』と見て、午後にクラシック部門で『雨月物語』の4K復元版。夜7時からこの映画を見ている。

これでは朝から感動の嵐で、夕方には疲れ切っているはず。実際、この時の感想は、最近のメンドーサによくある少し安易な作りかな、というものだった。ところが今回見直すと、そんなものではない。

冒頭に母親のローサが子供を連れてスーパーに買い出しに行くシーンで、がつんとやられる。主人公たちを追いかける手持ちカメラと、異様なほどの町の雑音。たどり着くのは「ローサ」という名の屋台で、スーパーで大量に買ったスナック菓子をばらして売っているようだ。

店を仕切っているのはローサで、奥にいる夫はヤクをやっている。2人で麻薬を小分けする。ローサは夕食を買ってくる。ご飯もおかずもビニール袋入り。

雨の日、警官数人がローサの店に突撃してくる。「警察だ。動くな。ブツはどこだ」。夫婦は手錠をかけられて連行される。彼らは20万出せば釈放すると言われるが、そんな金はない。ローサは売人を1人ばらすことで逃れようとする。

売人が逮捕され、その所持金と妻の金で15万が出てくるが、あとの5万はローサの子供たちが工面することに。親戚にかけあい、テレビを売り、息子の1人はゲイに体を売る。それでも4千足らない。ローサはみんなを残して町に出る。

いやはや、見ていていたたまれない。ローサたちは必死で生きていて、仲間も売る。彼女たち自身が、自分たちが可愛がっていた青年に売られたこともわかる。警官は押収したヤクを横流しし、現金を没収してチキンやビールを買ってきて、ローサたちの前で宴会を始める。

息子を買うゲイの男さえも、給料を差し出してさらにATMに走って、何とか少年の愛をつなごうとする。ほとんど5分おきにお金が出てきて、人々はわずかな金のために命がけになる。

スラムのような町の向こうには、高層ビル群が見える。しかしローサたちはこの町で生きてゆくしかない。なんと暗澹たる映画だろうか。ローサのラストシーンには心を鷲掴みにされた。メンドーサは直接的な荒々しい手つきで、これが世界の現実なのだと見せてくれる。今年必見の1本。

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