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2017年7月26日 (水)

『君はひとりじゃない』の味わい

2年前のベルリンで金熊賞を取ったポーランド映画『君はひとりじゃない』を劇場で見た。マウゴシュカ・シュモフスカという女性監督の映画だが、邦題が同日公開の『彼女の人生は間違いじゃない』みたいで、何となく遠慮していた。個人的にはこんな題名は苦手。

映画はなかなかの味わいだった。妻が死に、淋しいながらも刑事の仕事を淡々とこなす中年男のヤニッシュ。娘のオルガは母の死が飲み込めないで、摂食障害を起こす。精神病院に連れていかれ、そこでセラピーを担当する中年女性のアンナと出会う。

何の予備知識なしに見たので、最初はヤニッシュがアンナに出会う話かと勘違いした。ところが、アンナは霊媒の会も開いていて、死んだ息子と話せて淋しくなくなったという女性が出てくる。

ヤニッシュも部屋に一人でいると、突然妻の好きだったレコードが流れるのに驚く。あるいは彼女が半裸で踊りだす場面を見る。

途中から、これは死んだ女が蘇るオカルトかと思って見ていた。いろいろなゴタゴタはあるが、とうとう終盤にアンナはヤニッシュの家に行き、オルガを交えて話し出す。とうとう妻が出てくるかと思ったが、映画は別の洒落た終わり方を見せた。

単なる父娘の不仲の話かと思ったら、精神病患者の物語やオカルト映画やのようも見えてくる。そして終盤にかけて死者をめぐる人間のあり方を奥深く追及する。家の中や病院の病室の静かな室内に聞こえるかすかな物音を巧みに拾いながら、そこに精神性を感じさせる。

最初は地味に見えたアンナを演じた女優が、どんどん魅力的に見えてくる。本当に霊媒師のようでもある。ダンスや演技による集団セラピーの場面も実にリアル。

同じポーランドのキェシロフスキをちょっと思い出したくらい、リアルとファンタジーが巧みに組み合わさっていて、日常の中に漂う神秘的な雰囲気が心地よい作品だった。あまり期待せずに見たせいか、かなり得をした気になった。こういう、無名監督でスターも出ていないうえに暗い内容の佳作が、まだまだ日本できちんと公開されるのはすばらしい。

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