黒沢清の大傑作
9月9日公開の黒沢清監督『散歩する侵略者』を見た。大傑作である。一見、B級のSF映画のようだが、実はかなり本格的で迫力満点。長谷川博己が小型飛行機に追われて逃げ回る『北北西に進路を取れ』のようなシーンもあるのだから。
冒頭に殺人事件が起きて、女子高生が血まみれで家から出てきてふらふらと道を歩く。彼女をよけようとトラックと乗用車がぶつかる。この監督らしいホラーかと思うと、そうではない。
精神を患った男・真治(松田龍平)とその妻・鳴海(長澤まさみ)の生活が写る。妻はデザイナーの仕事をしながら、必死で夫をかばっている。これは恋愛ものかと思うと、長谷川博己演じる週刊誌の記者・桜井が出てきて、殺人事件を追いかける。記者が出会う奇妙な若者・天野(高杉真宙)と2人で、女子高生・立花(恒松佑里)を探す。
事件サスペンスかと思いきや、立花が見つかる。桜井は、天野と立花と話すうちに彼らが地球を侵略しにきた宇宙人だとわかる。一方で鳴海は夫の真治が宇宙人だということがわかってゆく。宇宙人たちは、「家」「仕事」「愛」といった抽象概念の1つを1人の人間から奪ってゆく。
鳴海の妹役の前田敦子も近くに住む男役の満島真之介も鳴海が仕事をする会社の社長役の光石研も、みんな人差し指で頭をコツンと叩かれて、「概念」を抜かれておかしくなる。一瞬、これはギャグかと思う。実際に見ていて何度も大笑いする。だけどその奥には、哲学的な深淵が開いている感じ。
真治と鳴海が音楽に惹かれて教会に入り、そこから牧師役の東出昌大が出てきた瞬間は、本当にぞくぞくした。高杉真宙も恒松佑里も前田敦子も満島真之介も、この映画ではどこか宇宙人めいている。何より、松田龍平が宇宙人そのもの。
後半になると、天野と立花と桜井は、機動隊と正面からぶつかる。真治と鳴海は砲弾の中を車で逃げる。そして二か月後、ドラマは東北大震災の被災地のような場所で展開する。遠くには壊れた福島原発のようなものが見える。そのリアルさは現在の日本そのもの。
黒沢監督は、あらゆる要素を積極的に取り込みながら、どこにもない未来派映画を作り出した。今年ナンバーワンの邦画かもしれない。また劇場で見たい。
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