『禅と骨』の奇妙な魅力
9月2日公開の『禅と骨』の試写を見た。監督の中村高寛は、前作の『ヨコハマメリー』(06)が大好評だったが、見ていない。今回はドラマのパートがあって、余貴美子や緒川たまき、永瀬正敏、佐野史郎なども出ているというではないか。
結論から言うと、期待したような驚きはなかったけれど、奇妙な魅力にあふれた映画だった。何といっても、中心となるヘンリ・ミトワが抜群だ。
冒頭に「赤い靴」の歌が出てきて、横浜のその銅像の前で歌う赤い靴をはいた女子高生たちが出てくる。何のことかと思ったが、それはヘンリ・ミトワがこの歌の話を映画化しようとしていたことにつながることが次第にわかってくる。
ヘンリは天龍寺の禅僧の格好をして、完璧な関西弁を話す。まわりの人々は「風流やった」「粋人やったね」と彼のことを言う。1918年にドイツ系アメリカ人の父と新橋芸者の母の間に横浜に生まれ、1940年に渡米。とたんに日系人収容所に入れられる。
戦後はロスで日本人女性と結婚するが、61年に単身で帰国。京都の寺に住み込んだり、茶道を学んだり、陶芸を作ったり、天龍寺の禅僧になったり。
娘や妻を日本に呼び寄せるが、どのようにして生活費を稼いでいたのか、わからない。91年に71歳の時、通訳として映画『動転』に関わり、映画に目覚める。そして『赤い靴』を映画化しようと考える。企画書を何度も書くが、一時期はアニメになったり、彼の生涯の方がずっとおもしろいと言われたり。
前半はまさに「ヘンな外人」そのもののヘンリの生涯を追うが、後半は映画製作がうまくいかず、家族とも不仲になる現在を描く。そして入院して亡くなり、家族は彼が溜め込んでいた代々の骨を、彼の骨と共に墓に入れる。
ドラマ部分は前半の戦前部分に挟まれるが、正直なところあまりおもしろくない。というよりも、事実があまりに強烈すぎて、低予算のドラマは浮いてしまう。あえてその浮いた感じがいいともいえるが。
前にも何度か書いた通り、ドキュメンタリーはとびきりおもしろい人物を見つけてきて、うまく語らせることに成功すれば、それだけで十分におもしろい。これはそのいい例だろう。その家族もぶっ飛んでいるし。こんな「ヘンな外人」がいたとは、知らなかった。
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