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2017年7月 3日 (月)

『ダイ・ビューティフル』の優しいまなざし

去年の国際映画祭はフィリピン映画が席巻した。ベルリンではラヴ・ディアス監督が『痛ましき謎への子守歌』でアルフレッド・バウアー(銀熊)賞を取り、カンヌではブリランテ・メンドーサ監督の『ローサは密告された』が主演女優賞に輝いた。ベネチアでは再びラヴ・ディアスが『立ち去った女』で金獅子賞。

そして東京国際映画祭では、ジュン・ロブレス・ラナ監督の『ダイ・ビューティフル』が主演男優賞と観客賞を取った。
おもしろいのは、このうち8時間を超す『痛ましき謎への子守歌』を除く3本が夏から秋にかけて公開されること。つまり日本では、1年遅れで世界のフィリピン映画フィーバーを味わうことができる。

『ダイ・ビューティフル』は7月22日、『ローサは密告された』は7月29日、『立ち去った女』は10月の公開。『ローザは密告された』は既にここに書いたので、今日は『ダイ・ビューティフル』について書いておきたい。

監督のジョン・ロブレス・ラナは、国際映画祭常連のラヴ・ディアスやブリランテ・メンドーサに比べたら、作家としての先鋭さはない。しかし、その語りのうまさ、世界を見つめる視線の強さはなかなかのもの。かつて『ある理髪師の物語』を東京国際映画祭で見て、おとなしい未亡人が革命の闘士に変貌してゆくさまに身震いがした。

今回も時間を行き来する巧みな展開で、120分があっという間。冒頭に少年が女装をしてカメラの前で話し、父親に叱られるシーンがある。それから、女装ミスコンテストでフィリピン1位になったトリシャ・エチュバリアの急死の場面。

彼女の遺言は、死後1週間にわたって、毎日違う死化粧を施してくれというもの。アンジェリーナ・ジョリーやジュリア・ロバーツなどに毎日変身しながら、これまでのトランスジェンダーとしての生涯が蘇る。

パトリック少年は高校生の時にあこがれの男子に付いていって集団強姦され、入院をしてしまう。父親は病院に来て真実を知り、息子を一家の恥と罵る。パトリックは家を出て、同級生バーブスと暮らし始め、トリシャと名乗る。ゲイのミスコンに出て賞金を稼ぎながら、身寄りのない娘を拾って育てる。

それから若いダンサーに一目ぼれして養ったり、バーで素敵な男性に出会ったり。7日間の長い通夜には多くの人々が現れる。そして何度もトリシャのこれまでの人生へと映像は遡る。トリシャやそのまわりの人々の優しさに、あるいは彼らを見つめるカメラの繊細で曇りのない視線に、何度も涙を流す。

ゲイのミスコン自体、日本では考えにくい。トランスジェンダーの仲間が大勢いて、それ以外の人々も彼らに優しいこともこの国ではありえない。そんな心地よいショックが一杯の映画だった。

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