『立ち去った女』に流れる時間
前に書いたように、この夏から秋にかけて強烈なフィリピン映画が3本公開される。『ダイ・ビューティフル』は今日、『ローサは密告された』は7月29日。そして10月には真打ち、ラヴ・ディアスの『立ち去った女』。去年のベネチアで金獅子賞を取った時に見ていたが、再見した。
今回日本語字幕付きで見て思ったのは、この監督がストローブ・ユイレやタル・ベーラを思わせるほど緻密で抑制された映像で語ってゆくこと。
『ダイ・ビューティフル』のジュン・ロブレス・ラナ監督が巧みなストーリー・テラー、『ローサは密告された』のブリランテ・メンドーサ監督がリアリズムの社会派だとすると、ラヴ・ディアスは考えつくされた固定ショットを並べてゆく独特の美学が光る。
映画は殺人罪で30年間刑務所で過ごして出獄した女・ホラシアが、真犯人ロドリゴの存在を知り、1人で執拗にその跡を追う姿を描く。まず自宅に帰るが、管理人から自分の夫は亡くなり、娘は結婚して家にいないことを知らされる。
管理人に家の権利書を渡して娘に会いに行き、息子が行方不明であることを知らされる。そして憎いロドリゴの住む島に行って、その豪邸の周りを毎日歩くが、警備が厳しく近づけない。
昼間はベールを被る真面目なクリスチャン、夜は男性のような格好で帽子を被る。そのうちに貧乏な人々と出会い、助けるうちに仲良くなる。物乞いのマメンからは、ロドリゴが教会に来る時間を教えてもらい、アヒルの卵売りからは、拳銃を入手方法を教えてもらう。男たちに強姦されて、ホラシアに介抱してもらったゲイのオランダは、ある行動に出る。
強い復讐の意志を持ったホラシアの静かな立ち姿がいい。遠くからロゴリゴを凝視し、出会う弱者に自然に手を差し伸べる。カメラは固定でその怒りの凝視と優しさの時間を見せてゆく。そして終盤、突然カメラが動き出す時には心底びっくりした。
舞台は97年の夏。香港の中国返還でフィリピンでは経済が悪化し、誘拐事件が多発している。そんな不穏な雰囲気の立ち込める街を、この映画は白黒で克明に描く。
「立ち去った女」はThe Woman who leftで原題通り。ホラシアは刑務所を去り、自宅を去り、憎いロドリゴの島へ行く。そして最後にそこも去る。何度も立ち去った女は、限りなく力強い。今年の外国映画ナンバーワンかもしれない。
付記:冒頭でこれら3本をフィリピン映画ではなく、タイ映画と書いていた。読んだ方からの指摘で訂正。
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コメント
タイ映画じゃなくてフィリピン映画ですよー
投稿: カルメンという名の女 | 2017年7月22日 (土) 09時50分