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2017年8月19日 (土)

『愚行録』再見

去年のベネチアで見たので、今年初めの公開時に見ていなかった『愚行録』を急に思い立って名画座に見に行った。今年の後半は人間の悪を描いた作品が多いと思っていたら、ふと劇場前を通りもう一度見たくなった。

まだ感想はアップしていないが、10月28日公開の白石和彌監督『彼女がその名を知らない鳥たち』と11月25日公開の大森立嗣監督『光』はいずれも心の奥に悪を抱え込んだ人々の物語だった。

『愚行録』もまさに「愚行」を繰り返した人々を描く。冒頭にバスに乗る若い男(妻夫木聡)が写る。スローモーションでカメラは人々の顔を追う。この映画は、人々が自らのいいかげんな過去を話す姿を舐めるようなカメラでじっと追いかける。

妻夫木演じる武志は雑誌記者。1年前に起きた悲惨な一家殺人事件のその後を追って、被害者の友人に話を聞く。一方で、幼児遺棄の疑いで逮捕された妹・光子(松島ひかり)に会いに拘置所に通う。

武志の会う人々はとにかく話す。自分のことや被害者のこと、学生時代のことや就職後のこと。そこでみんなから好かれたように見えた被害者夫妻(小出恵介と松本若菜)が、実は裏にいろいろあったことがわかる。そしてそれを語る5、6人の友人たちの本性もあらわになる。

そして終盤、その事件の真相があらわになった時、これまで黙って人の話を聞いていた武志が爆発する。そして本当の悪が露呈する。監督の石川慶はポーランドの国立映画大学で学び、これが長編第一作。固定カメラの現在と手持ちで動き回る過去の映像を組み合わせ、まるでキェシロフスキを思わせるような重厚で静謐な画面を作り出した。救いのない終わりもいい。

被害者の夫は早大を思わせる稲田大卒、妻は慶大を思わせる文慶大卒で、当然友人たちもそのどちらか。臼田あさ美、市川由衣、中村倫也、眞島秀和らが演じる若きセレブやエリートたちの嫌らしい感じが何ともたまらない。精神科医の平田満や弁護士の濱田マリもかっちり脇を占める。

武志と光子の兄妹の悲惨な過去は写らないが、そこに2人の原点があるという点では、大森監督の『光』に近いかもしれない。『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』も9月9日公開の黒沢清監督『散歩する侵略者』もそうだが、今年は不幸な狂った若者たちを描く秀作が多い気がする。

それにしてもこうした大型新人の映画が、ワーナーとオフィス北野で配給され、多くの会社が出資しているとは素晴らしい。

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