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2017年8月 5日 (土)

『愛を綴る女』の古風な味わい

10月2日公開のニコール・ガルシア監督のフランス映画『愛を綴る女』の試写を見た。実は去年のカンヌのコンペで見ているが、なぜかほとんど記憶にない。コンペのフランス映画は強姦がテーマの『エル』を始めとして強烈な作品が多かったからかも。

フランス映画だとアラン・ギロディの「垂直のままで」やブルノ・デュモンの「マ・ルート」のように日本公開が不可能な作品もコンペにあった。だから、ある意味で普通すぎる『愛を綴る女』を忘れてしまったのだろう。

今回見てみると、いろんな意味で保守的だが味わい深いまっとうな映画だった。1950年代の南仏の小さな村。美人だが気性が激しく問題を起こすガブリエル(マリオン・コティアール)を、両親はスペインからの移民のジョゼと結婚させる。

娘の気持ちなどは考えず、世間体だけで動く両親。美人で金がもらえるからと結婚するジョゼ。精神病院に入れられるよりはと、好きでもない男との結婚を受け入れるガブリエル。

結婚後ガブリエルは、医者から結石のために子供ができないと診断され、スイスのサナトリウムに入れられる。そこにはインドシナ戦争で傷ついた帰還兵のアンドレ(ルイ・ガレル)がいた。

結婚前ににガブリエルが好きになった教師は彼女にブロンテ姉妹の『嵐が丘』を貸したように、アンドレはアランの『幸福論』を貸し、チャイコフスキーの「舟歌」をピアノで弾く。

出てくる人物のみならず、ラヴェンダーの揺れる南仏、フランコ政権から逃れたスペイン移民、インドシナ戦争、文学、音楽、手紙、すべてが古めかしい。南仏の海の風景やスイスのサナトリウムの感じなど、本当に現代の映画とは思えないほど美しい。

そして最初にガブリエルが息子と夫と車でリヨンに向かうシーンを持ってきて、それから彼女の若い頃に遡る語りも今時珍しいほど古風だ。最後に露呈するアンドレとの愛の真実というのも、古典的な感じ。

特筆すべきは、感情の起伏の激しいガブリエル役のマリオン・コティヤールが、あまり泣きわめかずに、抑えた表情の中で強い思いを見せていること。彼女の言葉と表情と体だけでこの映画全体を支えているようだ。今風でないフランス映画を見たい人に是非ともおススメ。

そういえば原題はMal de pierres=石の病い=結石。私は近年の人間ドックで胆石の存在を言われ続けている。胆石があると、気性が激しくなるのだろうか。激しい愛に走るのだろうか。


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