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2017年8月21日 (月)

ファティ・アキンの軽やかな新作

トルコ系ドイツ人のファティ・アキンは、ドイツにおける移民問題を追及した『愛より強く』(2004)や『そして、私たちは愛に帰る』(07)のようにずっしりと重い映画も作れば、『ソウル・キッチン』(09)のように見たら踊りたくなる楽しい作品も作る。

前回の『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)は、トルコの現代史を問いただす、生真面目で政治的な歴史ものだったが、今回の9月16日公開の『50年後のボクたちは』(16)は、何と14歳を主人公にした夏休みものという。

教室で変人扱いされる主人公のマイク、彼が思いを寄せるタチアナ、その教室に転向してくるロシアの辺境から着たチック、そして嫌な感じの先生。出だしはあまりに普通の学園ものに、ちょっと拍子抜けしてしまう。

ところが背が高く妙にオシャレでアジア系の顔をしたチックがマイクに近づいて、盗んだ車に2人が乗るあたりから、だんだん「いい感じ」が出てくる。夏休みが始まり、マイクの父は若い愛人と「出張」、アル中の母は入院。チックはマイクに祖父が住む「ワラキア」(ドイツ語で未開の地)へ行こうと提案する。

全く無茶な14歳の2人が、旅先で出会う人々がいい。大勢の子供と住む不思議な母親に食事をごちそうになり、車のガソリンを盗むためにホースを探しに行ったゴミ捨て場で、イザという浮浪者のような娘と会う。

2人はイザと池に飛び込んで体を洗い、マイクは頼まれてアーミーナイフでイザの髪を切る。そこに飛び出す素敵なイザの表情。マイクは急に恋に落ち、イザもそれを理解する。

マイクの本当の初恋を頂点に、この旅にはこうした素敵な細部がびっしり詰まっていて、見ていてだんだん微笑んでゆく自分に気がつく。何気ない青春映画なのに、そのダサさが実にカッコいい。マイクが聞く音楽はリチャード・クレイダーマンなのに、この曲さえも魅力的に聞こえてくる。

さすが、ファティ・アキン、かつて少年だった中年の私には十分にウケたし、たぶん実際の14歳も好きになる映画ではないか。『50年後のボクたちは』という題名の意味は映画の終わりまで見ないとわからないが、これまた何ともうまい終わり方だった。

今年のカンヌで主演女優賞を取ったこの監督の「In the Fade」は来年の公開らしいが、こちらは再びシリアスなドラマのようでこれも楽しみになってきた。

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