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2017年8月 9日 (水)

是枝映画の新境地

9月9日公開の是枝裕和監督の『三度目の殺人』を見た。私は今年もベネチア国際映画祭に行くが、そのコンペ作品なので行く前に一度見ておきたいと思った。現場では観客の反応とか別のことを考えないといけないので。

今回は、最近のメジャーとなった是枝映画とは全く違う新境地を見せてくれた。『そして父になる』(2013)の大ヒット以来、『海街diary』(15)『海よりもまだ深く』(16)とわかりやすいホームドラマが続いていた。家族の絆を問い直しながら、その機微を繊細にリアルに描いてほろりとさせるこれらの映画とは全く違う。

あえて言えば『空気人形』(09)のような、感情移入を拒む孤独の物語に近いが、それとも違う。まず、男たちを中心にした犯罪ものであり、法廷劇である。冒頭に役所広司演じる男が、別の男を殴り殺してガソリンをかけて焼くシーンが出てくる。

つまり、フィルムノワールのDOA(=デス・オン・アライバル=着いたらもう死んでいた)で、結論は最初からわかっている。問題はなぜそうしたのかに絞られてゆく。弁護士の重盛(福山雅治)は、同僚に頼まれてその弁護を引き受けるが、相手は話す内容がコロコロ変わり、真相は意外な方向へ向かう。

ポイントは、「真実」を追求するよりも依頼人の利益になるように進める極めてドライな重盛が、犯人と接見を重ね、被害者の娘(広瀬すず)の証言を聞くうちに、いつのまにか真剣に考えだすというところ。

とにかく男たちが密室で話す場面が強烈だ。弁護士事務所、接見室、裁判所とすべて窓があって自然光が入るのに、人々の影ばかりが写り、アップの表情がどれも陰っている。そのなかで、ほんのちょっとした表情の変化が迫ってくる。

善から悪への往復を全身で見せる役所広司の存在感が大きい。彼と共振するように福山雅治も揺れに揺れる。ここで、不幸な影を引きずる娘を演じる広瀬すずがいなかったら、単調な自分勝手な男たちの物語になったかもしれない。検事役の市川実日子も、男たちの世界にピシリと釘を刺す。

最初はイタリアのルドヴィコ・エイナウディの音楽が奏ですぎかなと思ったが、物語が進むにつれて、単調とも言える展開に大きな心の揺れを与えてゆく。

この新境地がベネチアでどんな反応でとらえられるか、楽しみになってきた。


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