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2017年8月29日 (火)

『エル』の爽快さ

ポール・ヴァーホーヴェン監督、イザベル・ユペール主演の『エル』を劇場で見た。実は3度目で、昨年5月のカンヌで見て、8月頃パリの映画館で見ていた。あの極めてフランス的な映画を日本の観客の中で見たらどうだろうか、と思った。

カンヌで見た時は珍品だと思った。ところがパリの公開時の評判は2つに割れた。フェミニスト系からは「レイプ容認」と非難する声が挙がったが、多くの新聞や映画雑誌は「映画としてすばらしい」と書いた。私も2度目で、その登場人物たちの造形のうまさや展開の巧みさに舌を巻いた。

さて3回目は日曜の夕方で客席は満員。学生はいないが、単館系には珍しく30代、40代も多い。女性が7割で比較的落ち着いていてオシャレなのは、フランス映画だからだろうか。

映画は見る環境でだいぶ印象が変わる。大学で学生と映画を見ると、半分学生の気分になって考える。だから冒頭からレイプのシーンが始まった時、日本の女性は大丈夫かなと心配した。レイプされた後のお風呂のシーンも痛い感じだし。

主人公は友人たちとの夕食でそのことを話すが、警察には行かないと言う。理由が「警察とマスコミは大嫌いだ」というものだが、フランスで見た時はこれがあまりピンと来なかった。もちろんそれは、父親が起こした連続殺人事件の後遺症だが、日本語字幕のおかげでこの事件のこともよくわかった。

そうなると、あの超然とした彼女の行動がそこから来ていることがわかってくる。カツカツとハイヒールの音を立てて歩き、元夫や息子や母を平気でバカにする。元夫の若い恋人や息子の恋人にまで嫌味を言う。

要は仕事を十分にやって金を稼ぎ、好きなことをするという、ある意味で割り切った生き方だ。この映画には1人としてまともな人間はいない。フランスで見た時は主人公だけがまともだと思っていたが、実は一番の悪人とも言える。

そんな役割を演じながら、イザベル・ユペールの颯爽としたたたずまいは何だろうか。カッコいいとしか言いようがない。この映画は複雑にからみあう人間関係を巧みに展開する脚本や、半分ギャグのように次から次に人物たちの奇妙な行動を見せてゆく演出力も非凡だが、何よりもユペールという小柄のクールな女性そのものにある。彼女だから、すべてが許されるのでは。

さて見終わっての観客の反応を見てみると、「楽しかった」というものと「後味が悪かった」というものが半々のようだった。私には、『立ち去った女』などのフィリピン映画と共に、今年の外国映画のナンバーワン候補になりそうに思えてきた。


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コメント

昨日朝10時すぎ、日比谷シャンテの窓口に大行列が出来ていました。時間帯からして「エル」に並んでおられたのだと思います。とてもうれしくなりました。映画館に行列が出来ているとなんだかワクワクします。

投稿: 石飛徳樹 | 2017年8月29日 (火) 09時22分

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