『海辺の生と死』に失望
実は一月ほど前に試写で見ていたが、悪口になりそうなので、公開まで書くのを待っていた。監督の越川道夫氏は配給や製作で有名なので会ったことはあるが、初監督作の『アレノ』は見ていなかった。今回は梯久美子氏の脚本監修ということもあって、興味が沸いた。
梯さんの『狂うひと―「死の棘の妻・島尾ミホ』は、今年読んだ本で最も衝撃を受けたことは、ここに書いた。『出発は遂に訪れず』や『死の棘』にまつわる神話を、妻のミホからの視点で一気に覆した。
映画はミホの『海辺の生と死』をベースにしながら、梯氏の本をベースにしているようだ。だからあくまで視点はミホ=トエ(満島ひかり)の側にある。
映画は彼女が離島で小学校の先生をしながら、特攻隊長の朔と仲良くなってゆく姿を描く。しかし彼女が生徒と歩いている冒頭から違和感があった。「何だかNHKのドラマみたい」と思った。さらに大人の島民たちが出てくると、安易なドキュメンタリー映像のように見えた。
一番の違和感は朔を演じる永山絢斗。あまりの「都会のプリンス」ぶりに全く違うと思った。年下なのに隊長をやらされ、文学好きで軍隊に馴染めないというキャラクターがあまり出ていない。九大で東洋史を専攻した男にはおよそ見えない。
そのうえ、2人の非常時の恋愛が迫ってこなかった。朔からとえに手紙が来て、とえが塩焼き小屋に苦労して行ったのはいいが、その後の2人はひたすら長い固定ショットの語りが続くだけでキスもしない。次にはさすがにキスをするが、その後に真っ赤な花を象徴的に見せるといういかにもなショット。
私はその小屋へ2人が何度も行っては逢瀬を重ねるのかと思っていたが、そうでもない。とにかく2人の行動からは私には激しい恋が伝わってこなかった。
一番の問題は朔が出発する夜。とえは体を清めて白と黒の服を着る。ようやく朔に会うが、2人は抱き合わない。そのうえ、とえは朔が出発したかどうかわからないまま、あいまいに村に帰る。村では父親が防空壕の中で、爆弾に火をつけようとしている。そんな時に玉音放送が聞こえる。朔は1人でフラフラ歩きながらそれを聞くだけ。決定的な瞬間はなかったように思う。
満島ひかりの演技はよかったと思う。方言と標準語の混じった感じがうまかった。しかしそのほかの俳優はどこか違った。さらに島の人々との間に差があり過ぎたように思う。
私とほぼ同じ意見の人もいたが、日経で宇田川幸洋さんが絶賛していたし、ほかにも褒めている人にも会った。好き嫌いが別れる映画だろう。
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