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2017年8月27日 (日)

『夜明けを告げるルーの歌』にうなる

去年のアニシー国際アニメーション映画祭で、グランプリを取ったのが湯浅政明監督の『夜明けを告げるルーの歌』。次席の優秀賞を取った『この世界の片隅に』を抑えての受賞だった。この監督は、その前(といっても今年)の『夜は短し歩けよ乙女』が抜群に良かった。

『夜明けを告げるルーの歌』も公開時に見るつもりだったが、いつの間にか終わっていた。そこで早稲田松竹で彼の特集が組まれていたので、行くことにした。平日の朝1回目なのにびっしり。場所柄か、湯浅特集だからか、こんなに大学生が多い映画館を何十年ぶりに見た気がする。

映画の舞台は、都会に近い港町。そこで中学生のカイは父と祖父と静かに暮らしていた。東京に住んでいたが、両親が離婚したのだ。彼はパソコンで音楽を作っていたが、同級生の国夫と遊歩に頼まれていやいやバンドに加わる。人魚島で練習を始めると、そこに人魚のルーがやってきた。

ルーは町の人気者になるが、それを観光に生かそうとする大人たちはたくらみを考える。怒るルーの父(なぜか巨大なクジラ)は町を破壊する。

とにかくルーの造形がすばらしい。神秘的な人魚姫ではなく、どこにでもいる人懐っこい女の子だ。ルーの力でカイたちや町そのものが海に包まれた時の感覚は、これまでに味わったことがない。

町の人々はルーをもてはやすが、老人たちは昔からの言い伝えで人魚を恐れる。神社のたたりなどの土俗的な世界とSF的なファンタジーがひとつながりになって、湯浅監督独特のカラフルな世界を作る。

何よりも、映画全体が歌って踊る楽しさに満ちている。それが、リアリズムを超えた大胆な色と構成の画面に呼応する。大人や老人たちの若い頃、カイの母との思い出など、それぞれの人生の機微まできちんと織り込まれている。

ルーの父親が起こす津波は、東北大震災を思いだした。それほどこの映画は深く、美しい。それにしてもこの映画が今の日本のアニメでどこに位置するのか、よくわからない自分が情けない。

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