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2017年8月 3日 (木)

『ドリーム』のハッピーエンド

9月29日公開の『ドリーム』は、久しぶりにハリウッド映画らしいハッピーエンドを楽しんだ。ハッピーエンドのためには、それに至る過程を少しずつ細かに見せていかないといけない。そしてすべての要素が過不足なく揃って、ハリウッド映画という機械が完璧に機能する。

原題は"Hidden Figures"、つまり「隠された人々」で、映画はアメリカの宇宙開発の黎明期、1960年代に活躍した3人のアフリカ系アメリカ人女性を写す。60年代は公民権運動が盛んで、人種差別が徐々に撤廃された時代だった。

小さい頃から数学に秀でたキャサリンは、18歳で学位を習得し、大学院に進む。NASAのラングレー研究所に勤め、1962年のジョン・グレンの地球周回軌道の軌跡計算をする。彼女が、起用された宇宙特別研究本部に初めて入った時の、周囲の驚きといったら。

秘書以外は女性もいないところに黒人女性がやってきて、黒板に向かって誰よりも早く計算を解く。黒人用トイレはなかったので、800メートル先の古巣の非白人計算室まで全力疾走で往復して用を足す。そんな姿を見た上司(ケビン・コスナー)は、トイレの人種差別を撤廃する。

ドロシーは非白人計算室の責任者だったが、管理職になれない。IBMが導入されることを知って密かにコンピューターを研究し、黒人仲間にも教える。やってきたIBMの巨大な機械を操ることができたのは、彼女とその黒人仲間だけだった。

一番若いメアリーは宇宙科学エンジニアを目指すが、そのポストに就くには大学のある単位が必要。裁判官に直訴し、授業を取ることを認められる。

トイレや大学だけでなく、食堂もバスもコーヒーポットもすべて分離されているのが普通だった。あるいは軍の機密会議は女性の参加が許されなかった。そんななかでキャサリンたちは、派手な抵抗をせずに、少しずつ実力で入ってゆく。

白人たちはこれまで長い間分離や区別を当然としてきたから、誰もそれを変えようとまではしない。差別をする側はその意識がなくても、全く無意識のうちに差別してしまう状況がよく描かれていた。計算室の管理職を演じたキルスティン・ダンストは、そのあたりの雰囲気をうまく見せていた。

映画はキャサリンが中心で、彼女はシングルマザーで3人の子供を育てたことや、後に結婚したことなどの私生活も混じる。その一つ一つが積み重ねられて、ハッピーエンドが完成した。60年代を描いたものだが、あらゆる差別について考える意味で、この映画は今まさに意味があるだろう。

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受信: 2017年8月 4日 (金) 00時43分

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