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2017年9月20日 (水)

『はじまりの街』のトリノを楽しむ

10月28日公開のイタリア映画『はじまりの街』を見た。イヴァーノ・デ・マッテオという監督は、これまで日本で見た『幸せのバランス』や『われらの子供たち』がテレビドラマのように小ぶりで今一つだったが、今回はトリノが舞台というので気になった。

トリノはもちろん北イタリアの都市。フィアットの拠点として有名だが、行ってみると実はミラノと比べて大きな通りも少なく、観光地化されてもいない。歩いて楽しめる人間サイズの街だった。

この映画は、ローマに住む夫婦が崩壊し、母親のアンナが中学生の息子ヴァレリオを連れて女友達カルラの住むトリノに引っ越すところから始まる。イタリア人と仲良くなるとわかるが、彼らは日本以上に郷土愛が強い。特に南部と北部はほとんど憎みあっている感じがするくらい、お互いを嫌っている。

だからこの映画のように首都でありながら相当に南部的なローマから、北部都市のトリノへ引っ越す母子の気持ちはいかばかりかと思う。母親は学生時代の親友の家に行くのだからまだいいが、それでも仕事は見つからず、ようやく掃除婦の仕事が見つかる。

感受性の強いヴァレリオはすべてに馴染めない。学校では友達ができず、サッカーが好きなのに、その仲間にも入れない。自転車でウロウロしているうちにようやく仲良くなったのは、外国人の若い娼婦。

特に大きなドラマが起きるわけでもないが、この母子がほんの少しずつトリノに馴染んでゆく姿が紅葉の美しい晩秋のトリノを舞台に描かれる。何より、内気な少年を演じる男の子(アンドレア・ピットリーノ)が抜群にいい。

そして母親役のマルゲリータ・ブイとその友人役のヴァレリア・ゴリーノが「おばさん」の日常を見せる。特にマルゲリータ・ブイのこれほど疲れ切った表情は、これまでに見たことがないほど。40代後半の女性のリアルがひたひたと伝わってくる。

世界で最もすばらしいトリノの映画博物館やマダマ宮殿の前のカステッロ広場、ポー川のほとりの公園など、トリノに行ったことのある者にはお馴染みの風景が出てきたのも懐かしかった。この映画を見て、またトリノに行きたくなった。映画にはそんな効用もある。


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