映画以外の2017年ベネチアの話:その(2)
ベネチアの結果は出たが、ここではあえて違う話を書く。私は外国にいても早寝早起きだ。ベネチアでも5時頃起きる。ある朝起きて窓を開けて空気を吸っていたら、大きな蜂が舞い込んできて、部屋の中をぶんぶん回りだした。新聞紙を丸めて殺そうかと思ったが、かえって刺されと思うと怖い。
そこでまず窓のある浴室だけに電気をつけておびき寄せた。それからそこの窓を全開にして蚊取り線香を炊いた。10分もすると出て行ったが、朝から大騒ぎだった。
ベネチアで朝起きると気持ちがいいのは、船や波の音がすること。朝、目が覚めて暗い中でそれが響くと嬉しくなる。私のホテルの朝食は7時半からで、プレス試写は8時半。去年までは9時だったが、8時半になった。これだと食事をして、すぐにホテルを出ることになる。
だから5時頃に目を覚まして朝食までが、本を読んだりこのブログを書いたりする時間となる。海の音といえば、それを感じるような展覧会を見た。先日このブログへのコメントで、ベネチアのグラッシ宮殿でダミアン・ハーストの大きな個展が開かれているという情報が寄せられたのがきっかけ。
ダミアン・ハーストは、牛を輪切りにした展示で物議をかもしたイギリスの美術作家だ。今回は、2000年前の古代帝国の遺物が2008年に発見されて、そこで発掘された財宝を展示するという込み入った設定の展覧会らしい。
行ってみると、現在はフランスのピノー財団が運営しているグラッシ宮殿だけでなく、同じく同財団所有で安藤忠雄が旧税関を改装したプンタ・デラ・ドガーナでも展示していた。現代美術のコレクションを展示するこの2つの会場で、1つの個展だけをやるのは初めてという。
おもしろいのは、海から発掘されたという財宝にサザエなどの貝類がびっしりくっついていること。もちろんすべてフェイクなのだが、硬貨から立像、宝飾などすべてがいかにも深海から出てきた感じに作られている。そのうえ、入口にはこの帝国や発掘の解説ビデオがあり、大きな作品には発掘時の写真まで添えられている。
会場としては、あちこちの窓から海が見え、より海を感じさせるプンタ・デラ・ドガーナの方がずっと良かった。我々が普段ありがたがる古代帝国の物語や発掘活動を、この海の都市であるベネチアで平気で誇張して再現しているいたずらには、笑いが止まらなかった。
あの展覧会を見てからは、部屋で海の音を聞くと古代遺跡を思い出す。そして、すべての文明はフェイクだったのではないかとさえ思ってしまう。やはりダミアン・ハーストはただ者ではない。
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