« 坂本龍一はヒーローだった | トップページ | ベネチアもこれで最後か:その(9)そのほかの映画 »

2017年9月15日 (金)

セザンヌの肖像画の衝撃

パリで一番おもしろかったのは、オルセー美術館で開催中の「セザンヌ:肖像画」展。セザンヌといえば、もちろんリンゴなどの静物画や山などを描く風景画で知られる。実際に肖像画は200点もないという。

この展覧会は、その肖像画を世界中から集めた貴重なもの。日本で公開中の映画『セザンヌと過ごした時間』を見ればわかるが、セザンヌは最晩年の10年ほどを除くと、その絵はなかなか売れなかった。だから金持ちや有名人からの肖像画の依頼はなく、描くのは自分や妻や家族が多い。

まず、自画像が恐ろしい。22歳の時の最初の自画像は、まるで世の中全体を呪うような表情だ。その後は少しは顔つきは柔らかくなるが、冴えないハゲ男として容赦なく描く。後半になると背景と顔の表現が近づいて、輪郭が怪しくなってゆく。

一番心に残るのは、妻のオルタンス・フィケの肖像。結婚前からセザンヌ夫人と呼ばれたらしいが、いわゆる美しい肖像はない。顔はやせていつも斜めに傾き、まるで人形のように表情がない。そのうえ、20年たっても年齢を感じない。あるのは描き方の過激な変容であり、人物が背景に埋もれてゆく過程である。

2人の間には手紙が残っておらず、セザンヌが旅行しても一緒に行かなかったという。それなのに、衣装や椅子や背景を変えて、何枚も何枚も妻の肖像画を残している。まるでリンゴか何かを描いた感じなのだ。

初期の父親を描いた絵もかなり淋しい。貧しい出身から実業家になった父を恨んでいるような感じ。妻や父に比べたら、息子を描いた数点はずっと優しさが感じられる。こちらには息子の明るい表情があった。

セザンヌの絵画的実験は、もちろん静物画や風景画が中心だが、肖像画だと人間の体を使うだけにより過酷な感じがする。その厳しい実験台の頂点に妻の無表情の肖像画が並んでいる。

オルセーではこの展覧会の近くで、オルセー所蔵の印象派の代表作をまとめて見せていた。ここではセザンヌの肖像画や静物画があったが、私にはモネとセザンヌの非凡さが際立っているように見えた。

実はこの後にパリ市近代美術館で「ドラン、バルチュス、ジャコメッティ」展を見たが、セザンヌの肖像画の破壊力の後では何とも色あせて見えた。同じ日に見たのがまずかったか。

|

« 坂本龍一はヒーローだった | トップページ | ベネチアもこれで最後か:その(9)そのほかの映画 »

文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/65771410

この記事へのトラックバック一覧です: セザンヌの肖像画の衝撃:

« 坂本龍一はヒーローだった | トップページ | ベネチアもこれで最後か:その(9)そのほかの映画 »