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2017年9月26日 (火)

さすがノーランの『ダンケルク』

クリストファー・ノーラン監督は、毎回観客を驚かせる。今回も楽しみに劇場に行ったが、最初はどんな仕掛けかわからなかった。とにかく地味で、主人公さえ見えてこない。状況の全体的説明もない。そもそも出てくる人物は名前さもはっきりしない。

わかりにくいのは、時間軸の異なる3つの物語が交互に出てくるからでもある。1つは英仏海峡に面したフランスの港町ダンケルクで、逃げ回る英国兵の1週間の物語。

2つ目は、英国の民間船が政府の呼びかけで救助に参加する物語で、ある船主とその息子たちの1日が描かれる。もう1つは迫るドイツの戦闘機から逃げる英国兵を守るべく、英国から向かう飛行機の飛行士の1時間を描く。

それぞれは最初に字幕で説明されるが、その3つがどういう関係なのか、そもそも全体としてどんな状況なのかはわからない。それぞれの日常の細部が交互に写されて、途中からだんだん状況が分かってくるというもの。そのうえ、画面は全体に灰色に近く、モノトーンな海のシーンが中心になる。

戦争映画なのに、派手なスペクタクルはない。ドイツの戦闘機に逃げ回ったり、輸送船が沈んで必死で泳いだり、飛行機が墜落して重油で燃える海から必死で逃げる英国兵が描かれるだけ。

戦争に参加させられた普通のイギリス人の姿を、あくまで3つの視線からだけ描く。どうしてこの戦争が起こったかもその後どうなるのかもわからない。敵さえもほとんど見えない。しかし戦争というものの現実は、痛いように伝わってくる。

従来の戦争映画の形ではなく、戦争に巻き込まれた普通の人々の細部を積み重ねることで、生きるか死ぬかという究極のサスペンスを積み上げてゆく。映画を見終わって、今回のクリストファー・ノーランの新しさはそこにあったのだと気づく。あえていえば、ロベール・ブレッソンに戦争映画を撮らせたようなもの。

CGを使わないフィルムによる撮影が、細部のリアリティを増していることは間違いない。あの濃い海や空の色合いは、フィルムならではの重厚さが詰まっている。もう一度最初から見たら、もっと面白さが増す気がする。


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