ベネチアもこれで最後か:その(9)ブーイング映画
映画祭のプレス上映では、時々大ブーイングが起こることがある。今回一番大きかったのは、ダーレン・アロノフスキー監督の「マザー!」Mother!だろう。作家を演じるハビエル・バルデムとその妻役のジェニファー・ローレンスが演じるある種のホラー映画だが、上映後のブーイングは大きかった。
作家の住む大きな一軒家に医者(エド・ハリス)が訪ねて来たのをきっかけに、翌日にはその妻(ミシェル・ファイファー)もやってくる。さらに多くの人々がやってきて、大騒ぎを始める。
最初からホラーだとわかっているのなら、こんなブーイングはなかっただろう。あくまでまじめな心理ドラマとして始まったのに「ただのホラーじゃないか」となったのがよくなかったのではないか。最初から少し引いて見たら、かなり楽しめるのかもしれない。
次にブーイングが多かったのは、アブデラティフ・ケシシュ監督の「メクトゥブ、マイラブ 第一章」だと思う。確かに前作の『アデル、ブルーは熱い色』のようなドラマチックな作品ではない。南仏に住む脚本家志望のアラブ系青年アミンを中心に、その従弟のトニや取り巻く家族や女性たちを描く。
まるでロメールのような即興で若者たちの愛の姿を繊細にノスタルジックに描く映像は、私はかなり好きだった。とくに女性の肉体が限りなく美しく描かれていた。音楽もいい。ところがドラマは単調でパーティのシーンが長く、結局のところ何も起こらない。ブーイングはそこに対するものだと思う。
ベネチアからパリに向かう飛行機で、ケシシュ監督を見た。パリで荷物を待つ時に話しかけようかと思ったが、「私は支持していますよ」と言うのも妙なので、声をかけられなかった。
そのほかブーイングがあったのは、すでにここに書いたイタリア映画の「ある家族」。アイ・ウェイウェイの「ヒューマン・フロー」は、最初に拍手があった後に、少しブーイングが出た。
今回思ったのは、映画祭の特にプレス上映のブーイングは作品の質とはあまり関係ないということ。プレスの多くを占めるイタリアの素人に近い若手ライターたちの、素朴な期待に添わなかった時に起こるだけのことではないか。
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