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2017年10月11日 (水)

山形だよ、全員集合!:その(3)

今晩には賞が発表されるので、ほかの見た作品についても触れておきたい。日本と中国以外のコンペで「あっ」と驚いたのは、ジョン・ジャンヴィト監督の『航跡(スービック海軍基地)』。フィリピンの米軍基地が1992年に撤退した跡地で、廃棄物からアスベストが見つかったからだ。

215分の原一男『ニッポン国vs泉南石綿村』に続いて、277分のこの作品もアスベスト被害の話かと思った。見ていると、米軍が撤退時に捨てたり置き去りにしたのは、アスベストよりも鉛や水銀などを含む有毒物が多い。近所の水を飲んで脳性マヒになった子供が何人も出てくるが、これは水俣病の症状に近い。

見ながら、土本典昭の水俣の映画を思い出す。そして沖縄の米軍基地を撮った映画も考える。最近見た瀬長亀次郎を巡るドキュメンタリーや、ジャン・ユンカーマン、三上智恵などの映像。沖縄から仮に米軍が出て行っても、こんな廃棄物が残ったら水俣病の世界が始まるではないか。そしてそれは頭の中で、原のアスベスト被害者たちの長い裁判につながっていった。実は前半しか見られなかったが、それでもずっしりと残った。

そんな映像に比べると、欧米のドキュメンタリーは、ハイレベルでもたわいなく見えてしまう。スイスのピエール=フランソワ・ソーテ監督の『カラブリア』は、スイスの葬儀会社で働く2人の男がある遺体をイタリアのカラブリア州に運ぶ数日を撮る。

ロマ出身のセルビア人とポルトガル出身の男の会話はそれなりにおもしろいが、「人生のある一コマ」を捉えたものでしかない。ポーランドのアンナ・ザメツカ監督の『オラとニコデムの家』は、自閉症気味の弟の聖体拝領式を中心に、姉、父、別居中の母を描く。14歳の姉のオラの奮闘ぶりは痛々しいが、これまた「人生のある一コマ」のスナップショット。

ドイツのフィリップ・ヴィトマン監督『ニンホアの家』は、1972年にドイツに移住したベトナム人家族と残された人々を描く。ベトナム戦争で離散した家族が浮かび上るが、ドイツ人が監督のせいか、あくまで美的にノスタルジックに見せる。そうするとベトナム戦争が単なる「人生のある一コマ」になってしまう。

ブラジルのジョアン・モレイラ・サリス監督の『激情の時』は、1968年の五月革命のパリや同年のプラハ動乱をアーカイヴ映像から見せる。どちらもあまり見たことのない映像を選び出していて興味深いが、それ以外に監督の母が同時期に中国を訪問した映像も見せる。母の記憶に入ることで、歴史的な事件が単なる個人的な「人生のある一コマ」になってしまう。

4本とも個人的な思いに満ちた「巧みな」映画だが、現代社会の問題に正面から挑む原監督たちの映画に比べたら影が薄い。

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土本典明✖ ⇒ 典昭◯

投稿: | 2017年10月12日 (木) 07時49分

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