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2017年10月 7日 (土)

『コレクションと資本主義』に考える

水野和夫氏と山本豊津氏の対談新書本『コレクションと資本主義』を読んだ。ここでも書いた通り、水野氏の資本主義分析は最近のお気に入り。対談をしている山本氏は、東京画廊のオーナーで面識はないがその顔は何度も見たことがあった。

水野氏が美術史家とではなく、画廊主と対談という点に興味を持った。日頃からコレクターや美術館に作品を売っている人間が、今の資本主義やこれまでのその歴史をどう考えているか、知りたいと思った。

読んだ感想は、一言で言うと期待外れ。資本主義の歴史と美術史が、いまひとつピシリとかみ合わなかった感じか。それでも興味深い細部は多かった。

私が一番おもしろかったのは、最近の話。2016年の美術品のマーケットシェアは、1位が中国で23億ドル(26.8%)、アメリカが17億で2位、イギリス、フランス、ドイツと続く。マーケットだから画廊やオークションの売買の合計だろう。これほど中国人が美術を買っているとは。

山本氏は今や「具体」の白髪一雄の絵は5億円以上でオークションで落札されると言う。そして買っているのは日本人ではない。「戦前の財閥はちょっと違っていたのですが、つくづく現代の日本人は、投資や資産運用に向いていない民族だと思います。花が咲いてから買っても、そのあとは萎れてしまうだけ。高値掴みは投資で一番ダメなパターンですが、「具体」にしても「もの派」にしても、無名のころに買っていたのは目ざとい外国人です」

そういえば、かつて新聞の取材で青山の根津美術館に電話したことがあった。まだ新館の建設準備中だったが、中国の清時代の宝飾時計を香港のオークションで1個5億円くらいで約10個売ったニュースがあった。電話で確認すると「事実です。建設資金が一挙に出ました」と言われた。もちろんこれは売買が許される私立美術館だからだが。

山本氏はあとがきで書く。「じつは中国の美術愛好家や投資家たちは、お宝が眠っている日本に目をつけて、大挙してこの国に押し寄せ、中国では手に入らない自国の古美術品を高額で買い戻しています。せっかくのお宝が散逸する前に、文化庁などが先頭に立って国家的に美術品を守り、財務省が資産運用することで、世界にまたがる美術品の特殊性と特異性を内外に打ち出してほしいと思います」

そのほか、いくつも気になった点を挙げる。油彩画が生まれたのは15世紀のフランドル地方で、フレスコ画と違って、金持ちが買って自宅に飾り始めたこと。今、美術最大のイベントはスイスのアート・バーゼルで、ここはマイアミと香港でもフェアを開くこと。今年の夏に私がベネチアで見たダミアン・ハースト展は偽の海底発掘物を並べていたが、これこそ金利ゼロ時代にふさわしいバロック的マニエリスムであること。

絵を買ったり、運用したりするほどの金もない私は、せめて世界の「コレクション」の動きを遠くから眺めるしかない。


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