カメジローに涙する
『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名はカメジロー』を劇場で見た。おもしろいという話をあちこちで聞いたから。TBSが作ったテレビ番組を追加取材して劇場用に作り直したものだが、見てみるとするすると引き込まれて、最後には涙してしまった。
最近話題になっている東海テレビの作品とは違って、いかにもテレビらしいオーソドックスな演出だ。戦後、沖縄の祖国復帰へ向けて戦い続けた瀬長亀次郎という人物を、写真、映像、日記、公文書を駆使して描く。その間に彼を知る人々の証言が挟み込まれる。
おもしろいのは、彼が獄中も含めて生涯書いた日記を丹念に読み込んで引用している点。鉛筆で書かれた文字から、まさに不屈の精神の軌跡が蘇る。さらに最近公開された米軍の極秘扱い文書の引用も興味深い。アメリカ人がいかに彼を恐れ、かつ重要視していたかがわかる。
私が感動したのは、瀬長が出獄したシーンと沖縄復帰後に国会で佐藤首相に質問をしたシーン。1954年に逮捕されるが、1年半後に出獄した時には1万5千人が出迎えた。その時の動画はないが、数枚の写真が喜びにあふれる市民を写している。
みんなが一斉に万歳をし、「平和への哲人」というプラカードも見える。刑務所から出た瞬間の写真は、見守る警官さえも嬉しそうだ。それから市長に選ばれるが、米軍の策略で引きずり降ろされる。それでも活動を続ける。
1970年に沖縄から衆議院議員が出るようになって、7期連続で選ばれる。佐藤栄作との国会対決の映像は後半のハイライト。佐藤は「瀬長君は」と下に見る感じだが、瀬永は全く気にせず、ユーモアを交えて言いたいことをすべて言う。天性の政治家だと思った。
実を言うと私は瀬長のことを知らなかった。正確に言うと、私の父親が「沖縄でいつも騒ぐ議員がおる」と言っていた記憶があるので、たぶん彼のことだろう。沖縄に近い福岡でさえも、沖縄の戦後は遠い国の話だった。
瀬永亀次郎という極めて魅力的な人物を通じて、私は再び沖縄の歴史を学んだ。いくつもあるドキュメンタリーや劇映画で何度学んでも、まだまだ学びきれない気がする。それほどまでに、沖縄について無知である自分に気づく。
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コメント
いつも楽しく読んでいます。数年前に新聞記者として沖縄に駐在しておりましたので、レビューを拝見して映画を見てみたくなりました。蛇足ですが瀬永→瀬長かと。
投稿: | 2017年10月 7日 (土) 19時49分