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2017年10月31日 (火)

トップが変わってもあまり変わらない東京国際映画祭:その(3)

去年の東京国際映画祭でもそう感じたが、今フィリピン映画は勢いがある。今回3本見たが、どれも見ごたえがあった。まず震撼したのは、「ワールドフォーカス」部門のダニエル・R・パラシオ監督『アンダーグラウンド』で製作はブリランテ・メンドーサ。

メンドーサを始めとしてフィリピン映画には極貧の人々を描いたものが多いが、この映画は格別だ。主人公たちは墓地を不法占拠し、墓荒らしをする。裕福な家族の墓地は屋根があって鍵付きなので、彼らはそこに住み大きな大理石の墓石をベッドにする。

冒頭に岩を壊す大きな音がする。墓を砕いて棺桶を取り出し、白骨死体から指輪を引き抜いて質屋に持ってゆく。主人公のハンギスは妻と娘と暮らすが、娘は病気で病院に行く金もない。後半は埋葬されたばかりの死体を横流ししようとするが、これがかなりのサスペンス。翌日、娘は死んで同じ墓地に埋葬される。

まさに生と性と死が過酷にせめぎ合い、ぶつかり合うさまをカメラは容赦なく追いかける。圧倒され続けの84分だった。ダニエル・R・パラシオ監督の初長編だが、これがコンペでないのは既にサン・セバスチャン映画祭の若者コンペに出ていたからか。「アジアン・プレミア」でも、このレベルならコンペに入れて欲しかった。

これを見た直後に「CROSSCUT ASIA」部門で同じフィリピンの『キリスト』を見た。HF・ヤンバオ監督の作品で、こちらはメンドーサの製作ではないが彼の推薦作。闘鶏場で賭けの仲介をして暮らす男とその妻と娘を描いたもので、その設定は『アンダーグラウンド』に近いが、比較すると家があるだけまだいい。

娘は小学校の卒業式で賞をもらうが、父親は闘鶏で全財産をなくしてしまってお祝いの夕食もできず、妻は激怒する。闘鶏の様子が克明に描かれるが、それに狂喜する人間たちに次第にダブってくる。『アンダーグラウンド』の後なので印象が薄くなったが、92分の実に濃厚な映画だった。

その2本と違い、「アジアの未来」部門の『ある肖像画』は、しっかりした作りと演出のミュージカルで十分楽しめた。しかし設定は、日本が攻めてくる直前の1941年で、没落貴族の娘2人が画家の父の描いた傑作を守るというシビアなもの。

監督は1953年生まれのロイ・アルセニャスでアメリカで舞台演出家として活躍していたという。大半は娘たちの家の中で展開するが、マニラの富裕層をノスタルジックに描く力はなかなか。

コンペは既に10本近く見たが、この3本よりレベルの低い作品が多いのに、フィリピン映画は1本もない。昔は東京国際映画祭は本当に欧米偏重だったが、最近はだいぶよくなった。それでもアジア映画の存在感が増しているのに欧州の映画祭には入りきれない状況を考えると、東京はもっともっとアジア中心でいいはず。

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コメント

コンペとアジアの未来はワールド、インターナショナル・プレミアの拘りを捨てた方がいいですね。
ろくな作品が揃わないので統合した方がいいです。小さい映画祭にコンペが2つなんて必要ないでしょう。

投稿: カルメンという名の女 | 2017年10月31日 (火) 11時17分

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