山形だよ、全員集合!:その(1)
また山形の国際ドキュメンタリー映画祭に来た。昔、「8時だよ、全員集合!」というドリフターズの番組があったが、ここに来るとまさに「全員集合」という感じだ。昔よく仕事をしたり酒を飲んだりした映画好きの友人たちの多くは会う機会がなくなったが、彼らと再開するのが山形だ。
だから2年ぶりに会う旧友も多い。映画業界人も記者も評論家も学者も、いわゆる根っからの映画好きが多い。2年に一度、子供に帰ったように朝から映画を見て、夜は酒を飲む。
私は今回もたった2泊なので10本くらいしか見られない。そこでコンペから良さそうなものを選んで見た。まず、日本映画は2本見たが、どちらも相当の力作だった。
原一男監督の23年ぶりの長編『ニッポン国VS泉南石綿村』は、アスベストの後遺症で苦しむ人々の訴訟から最高裁判決までの8年余りを描く215分の作品。2005年にその被害が報じられてから、石綿工場が多かった大阪の泉南地区で働いたり住んだりした人々は訴訟を始める。
第一陣の地裁判決勝利、高裁敗訴、第二陣の地裁、高裁勝利から最高裁判決へ。その過程で時期などによって裁判の対象から外される人々も出てくる。さらに、苦痛を訴えながら弱っていく人が、一人一人と亡くなっていく。
2時間近くの前半が終わった時、十分に見ごたえを感じたが、圧巻は後半だった。第二陣高裁勝利後に国が上訴しようとする動きに対して、原告団の一部は総理大臣へ直訴をしようと弁護士にも相談せずに官邸へ向かう。その中心となる柚岡さんは原告ではないが、一番熱心で警備ともめる。
そのあたりから柚岡さんや裁判から外された佐藤さんなど、ちょっと変わった人々が際立ち始める。彼らの語る姿を見ているだけで、本当におもしろい。このあたりは『ゆきゆきて神軍』で奥崎を撮った原監督らしい。そして最高裁勝利から大臣の謝罪、賠償金の分配まで。
いい加減な国の対応に翻弄される現代の庶民を描く点では、我妻和樹監督の『願いと揺らぎ』も同じ。こちらは東北大震災で被災した南三陸村の波伝谷地区の人々の再生の日々を描く。80軒あったうち1軒しか残らなかったが、近くの仮設住宅に住みながら、漁業を共同で再開させ、「お獅子さま」と呼ぶ祭りを復活させようとする。
1985年生まれの若い監督は、映画を撮る自分の立場に悩みながら、何とか力になろうとする。そして再生へ向けて話し合いを続けながら少しずつ前進する人々を、きちんと捉える。途中から動き出す女たちの何とたくましいことか。実は146分の映画の多くは地震後1年後あたりの時期を描いている。一番大変だったからなのか、そこは白黒の映像。
余裕のベテランと悩む若手の2本を見て、平成以降の日本の抱える問題がくっきりと浮かび上がった気がした。
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