『希望のかなた』のリアル度
12月2日公開のアキ・カウリスマキ監督『希望のかなた』を見た。前作『ル・アーヴルの靴みがき』で後半に難民の黒人が出てくる場面があったが、今回は何と「難民問題」を中心に持ってきた作品となった。
チラシによれば、『ル・アーヴルの靴みがき』から「港町三部作」を作るはずだったが、今度の作品をきっかけに「難民三部作」に変わったという。
冒頭に顔が炭だらけの若い男が現れて警察に出向き、難民申請をする。一方できちんとした身なりの中年男性が、妻らしい女性に鍵と結婚指輪を渡して、自分の商売道具のシャツを売り払ってしまう。映画はこの2人の男が出会い、協力する過程を描く。
最初は2つの物語があまりにも淡々とし過ぎて、ちょっと眠気がしたくらい。ところが中年男のヴィクストロムがポーカーに勝ってレストランを買い取るあたりから、カウリスマキ特有のとぼけたユーモアが出てくる。難民のカーリドは収容所に入れられるが、ネオナチに襲われてヴィクストロムに助けられる。
レストランは流行らず、一時は怪しげなスシ屋を始めるが(ここは日本人にはたまらない)うまくいかない。カーリドが見失った妹の居場所がわかり、ヴィクストロムは呼び寄せるために全力を尽くす。
例によって登場人物たちは立ちんぼで正面を向いて話すのみ。ところがそれぞれの顔や表情が抜群におかしいし、奇妙な抒情が漂う。そしてところどころで目一杯に聞かせる音楽が、心に沁みる。その多くは生演奏のバンドだ。なかでもカーリドが弾くリュートのような楽器と彼の歌がたまらない。
これまでの映画と違って難民収容所の審査など実にリアルな描写が溢れているにもかかわらず、いつの間にはファンタジーになってしまうところがカウリスマキだろう。赤や青や黄の原色の色彩と共に。しまいには画面のあちこちに「人情」があふれ、見ていて涙ぐんでしまう。
カウリスマキのような政治を語らない監督が取り上げるほど、実は「難民問題」は大変なことになっているのだ。日本にいるとそのことがあまりピンと来ないけれど。
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