トップが変わってもあまり変わらない東京国際映画祭:その(7)
まだ触れていない映画について、メモを残しておく。中国のチョウ・ヤンズ監督『老いた野獣』は「アジアの未来」部門でスペシャルメンション(2位)だったが、かなりよかった。内モンゴルの都会を舞台にした映画で、主人公の父親が何とも魅力がある。
60を過ぎて若い愛人を持ち、サングラスをかけてバイクを飛ばす。妻が入院しても知らん顔で、独立した子供たちが用意した手術代にまで手をつける。とんでもない中年だが、人情深くなかなか憎めない部分もある。子供たちが無理やり父に契約書にサインさせたことで裁判になり、とんだ展開に。
後ろには高層ビルが立ち並ぶ、荒野のような風景がいい。親も子もみんな金に追われてギスギスしている。日本でもよくありそうな内容のドラマだった。これならコンペのフランス映画2本よりはるかに上。
そのほか、「ワールドフォーカス」で2本見た。ベルギーのフィリップ・ヴァン・レウ監督の『シリアにて』は、アパートに閉じ込められた家族の24時間を描く。家の中と窓から見える風景がほとんどだが、そこに来る人々との会話や爆弾や銃の音だけでこれだけのドラマが作れるとは。いささかあざとい感じはあるが。
イタリアのタヴィアーニ兄弟の『レインボウ』は、第二次世界大戦末期のレジスタンス運動の話。好きになった女性の恋人が捕虜になって救おうとする男の話だが、巨匠の晩年にふさわしい年代物のワインのような味わいだった。ドラマは希薄だし単調だが、青春の一途な思いがピュアに伝わってくる。
この2本とも最終日に一般観客と見たが、完全に満員だった。休日とはいえ、これほどの集客があるとは驚きだ。今年の総観客数は63,679人で、上映した映画は231本。
今年で30回になるが、いまだに世界から注目される映画祭からはほど遠い。東京より少し前の釜山やトロントは、コンペを設けずに観客賞のみにすることで、観客重視を打ち出したことが結果的に映画祭として国際的に成功することとなった。
東京は表向きは三大映画祭を目指しながらも、ロカルノやサン・セバスチャンにも及ばない。実際はコンペやアジア部門の本体を除くと、基本は日本の観客向けなのに。「特別招待部門」がその象徴で何でもあり。
その表向きと内向きの顔の乖離は、まるで憲法九条で軍隊が禁じられているのに自衛隊を持つこの国の政治に似ている。そうした矛盾が全くないかのように、映画祭の30回目が華やかに祝われた。
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