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2017年11月29日 (水)

戦中の原節子もう1本

大学入試といえば2~3月だと思っている人が多いが、実は9月半ばから始まっている。2~3月の一般入試の前にAO、推薦、留学生などの入試があり、大学院入試も修士(2種類)と博士がある。さらに入試相談会も年に3回はあるので、休日がつぶれることが多い。

先日の祭日は、修士の留学生及び学内向け入試が早めに終わったので、急遽フィルムセンターで原節子の特集に駆け込んだ。見たのは、伏水修監督の『青春の気流』(1942)。

この時代の映画を見て一番驚くのは、思いのほかプロパガンダ色が薄いことと、普通の豊かな日常生活が続いていること。この作品は、新しい旅客機を構想する設計士のプロジェクト実現を中心に、彼をめぐる上司や2人の女性を描く都会的なドラマだ。

冒頭に「戦地に往かぬ者も援護をすべき」という意味の言葉が出てくる。つまり旅客機の設計者も国のためにがんばっているという意味だろう。大日向伝演じる若き技師・伊丹は斬新な旅客機を社内でプレゼンする。社内は2人の専務によって賛成派と反対派に分かれるが、進藤英太郎演じる由島専務は社長を説得して反対派に勝つ。

伊丹は由島派で、しばしば専務の家に顔を出す。そこで専務の娘(原節子)は彼を気に入ってしまい、父の持ってきた縁談を断る。ところが伊丹には愛し合う女性・美保(山根壽子)がいた。

原節子はいつも洋装で暇があるとピアノを弾き、「お嬢さん」そのもの。好きな伊丹が自宅から帰る時には自分から「送っていきますわ」と歩き出し、しまいにはこっそり伊丹の家に1人で行って伊丹の帰りを待つという大胆さを見せる。

一方山根壽子は、いつも和服でおしとやか。毎週土曜日に伊丹と「純喫茶紅」でソーダ水を飲む。結婚を申し込まれた彼女が翌週そこに姿を現さないのは、弟がもうすぐ出征で自分が結婚したら母が困るから結婚できないという理由によるもの。

伊丹が原に心が揺れる瞬間さえないのは、やはりモダンガールのお嬢さんよりも、万事和風の女性が時代の要請ということだろうか。そういえば、原の父役の進藤英太郎は会社でも和装だが、伊丹はスーツでいつも帽子をかぶる。原も帽子をかぶって白のブラウスを着ていた。「純喫茶紅」の女給3人は着物。

最後は伊丹と山根壽子の結婚式で終わる。恋敗れた原節子も晴れやかな顔で参加している。脚本は黒澤明だが、この映画のうまいのは、大日向伝と進藤英太郎の掛け合いなど、コミカルな要素があちこちに入っているところ。伏水修という監督は『支那の夜』くらいしか記憶にないが、もっと見てみたい。

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コメント

偶然、来てしまいました。僕もフィルムセンターで「青春の気流」や「東京の女性」などを観ました。伏水修の評価の高い「東京の女性」(1939)が観れて満足しました。車を運転するキャリアウーマンで、モダンガールの原節子。丹羽文雄が原節子のために書いた小説が原作です。「青春の気流」も初めてです。当時は、やはり和風の慎ましい大和撫子が恋に勝利するようですね。「熱風」(山本薩夫監督、原節子ら)も観てないですが、原節子が失恋するようです。フィルムセンターは初めて行きましたが、外国人が来ていました。つまらぬことを書き失礼しました。

投稿: 夢の助 | 2017年12月11日 (月) 19時22分

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