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2017年12月15日 (金)

『ビジランテ』 の地と血の匂い

入江悠監督の『ビジランテ』を劇場で見た。実は題名を聞いて怪物の名前かと思っていたら、「自警団」のことらしい。「朝日」「日経」「毎日」などの映画評で絶賛されていたので、見に行ってみた。

結論から言うと、この監督の映画では一番よかった。実は『SR サイタマノラッパー』シリーズは、非凡な才能は認めながらも今一つ自分には馴染めなかった。メジャーの『ジョーカー・ゲーム』はその器用が目立って、『22年目の告白』は見ていない。

今回は久しぶりのオリジナル脚本だが、同じ埼玉の田舎を描いた『SRサイタマノラッパー』が社会的、政治的な背景を伴って帰ってきた感じか。つまり田舎の若者の鬱屈とその爆発だけでなく、社会や土地や家族などの共同体にこもった血と地の匂いが画面から静かにしかし色濃く漂う。

冒頭に一郎、次郎、三郎の3人の少年が川を渡るシーンが移る。父親が力づくで呼び戻すが、一郎は再び逃げてゆく。そして30年後、父が死んで二郎(鈴木浩介)は後を継いで市会議員になるが、三郎(桐谷健太)はデリヘルの店長をしている。そこに帰ってきた一郎(大森南朋)は相続を主張する。


二郎は、政治家として生き延びるために父から受け継ぐ土地をモール計画に売らねばならない。三郎のもとにもヤクザ経由で同じ圧力がかかるか、一郎はどこ吹く風で無視する。借金を抱えた一郎に横浜の債権者も地元のヤクザも迫ってゆく。三郎はいつの間にか一郎と手を組む。

土地開発を進める政治家とデリヘルを仕切るヤクザがつながって、3人の兄弟に迫る。どす黒い強い悪の共同体に3人の血は沸き立つ。そして蘇る過去の記憶。そこに中国人たちとのいざこざも加わる。

とにかく夜のシーンが多い。あるいは朝の夜明けや夕方。山、畑、川、道に大きな鉄塔の電線があちこちにあるが、家や人はまばら。典型的な地方の風景に血みどろの戦いが始まる。その不穏な空気をカメラが舐めるようにじっくりと見せる。

殺し合いがたまにスプラッタに見えることと中国人の行動が単純過ぎるのが気にはなったが、とにかく最初から最後まで日本の田舎に蓄積された嫌な感じが充満していて、神話的次元に達していた。入江悠監督の巨匠への第一歩ではないか。

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