ようやく『人生フルーツ』を見る
最近、東海テレビ製作のドキュメンタリーがよく話題になる。『人生フルーツ』もその1本だが、この半年全国でヒットしたらしい。私は最近ようやく名画座で見ることができたが、平日の昼間なのに、なんと客席はびっしり。
高齢の夫婦を扱った作品なので、客層も60歳以上が多いが、20代から50代までもパラパラといる。映画は90歳の元建築家・津端修一と87歳のその妻・英子の毎日を淡々と追う。
彼らは大きな庭に果物や野菜を植えて、それを収穫して妻が料理をして一緒に食べる。その合間に夫の建築家としての過去や妻との出会いなどが挟み込まれる。
それだけなのに、この2人の生き方に心を奪われる。畑には小さな黄色い看板を作り、野菜の名前を書いたり、注意を書いたり。自宅はかつて津端が師事した建築家のアントニン・レーモンドの建築を再現。彼は日本住宅公団に勤めていた時、伊勢湾台風後に名古屋市郊外に計画された高蔵寺ニュータウン計画の設計を37歳で任される。
従来の団地のイメージを変える建築案を出すが、公団は効率第一で山は削り取られ、思うようには実現できなかった。津端はその公団住宅の戸建てと空き地を買い取って、森を作り始める。それから50年以上たって、そこには里山のような緑豊かな風景が広がっている。
彼らの合言葉は「ゆっくり、こつこつ」。そして「自然に学べ」。プラスチックを嫌い、木や陶器を大事にする。妻は名古屋に買い出しに行き、信頼できる店から魚や野菜を買う。
「ゆっくり、こつこつ」もそうだが、ナレーションでいくつかのフレーズが繰り返されていささか説教臭くもある。「風が吹けば、枯葉が落ちる。枯葉で土は肥えて果物がなる」など、4、5回繰り返す。
そのテレビ臭が嫌だなと思っていたら、後半で夫の修一が亡くなってしまうところでまた心を掴まれた。畑仕事の後に昼寝をしたら死んでいたという。そこから彼が協力した佐賀県伊万里市の精神科クリニックの計画が明らかになる。
この映画を見て羨ましいなと思ったのは、夫が絵が描けること。建築家としては当然かもしれないが、身の回りを楽しくデザインしている。そして畑があること。マンション暮らしの私はやろうと思ってもできない。絵は昔からヘタだし。
最後にまた「長く生きるほど人生は美しくなる」というフランク・ロイ・ドライトの言葉などが出てくる。高齢を賛美するのはいいことだが、彼らのような生き方は誰もができるものではない。
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