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2018年1月12日 (金)

世界のヌーヴェル・ヴァーグを追って:吉田喜重

吉田喜重監督の映画はたぶん『人間の約束』(86)から同時代的に見た。『嵐が丘』(88)や『鏡の女たち』(02)まで。以前の作品は『エロス+虐殺』(69)など70年代前後の難解な作品を30年ほど前に数本見たくらいだった。

個人的に面識を得てからも彼の初期作品は見たことがなかった。今回初めてデビュー作『ろくでなし』と2本目『血は乾いている』(共に1960年)を見たが、抜群におもしろかった。演出力の点では大島渚の『愛と希望の街』(59)や『青春残酷物語』(60)を遥かに上回っているように思えた。

『ろくでなし』は、終わりが前年に日本で公開されたゴダールの『勝手にしやがれ』にあまりにも似すぎているが、全体のタッチはゴダールとは全く違う。群集劇の一人一人の個性をきちんと描き分ける手腕は、撮影所のスタッフや俳優陣の厚みを感じさせる。

川津祐介演じる金持ちの息子・秋山にたかる大学生たちの生態を描きながら、青春の倦怠を鮮やかに見せる。秋山を演じる津川雅彦の屈折具合がいい。渡辺文雄演じる会社員のように、大人も同じように退屈しているところがいい。

カメラマンの成島東一郎が一本立ちした作品でもあるが、若者の顔のアップを交互に切り返しショットで見せながらも、時おり滑らかに横移動させたり、あえて暗い画面を作ったりする野心も感じられる。吉田喜重や大島渚は、一回り上の成島によって大いに助けられたのではないか。

『血は乾いている』も『ろくでなし』と同じくオリジナル脚本を吉田が手がけているが、こちらはさらに発想がおもしろい。佐田啓二演じる会社員の木口は、会社の大規模リストラ計画に抗議して社員集会でピストル自殺をする。結局未遂に終わるが、マスコミで大きな話題になる。

それに目をつけた保険会社の広報担当の野中(吉村真理)は、自社のキャンペーンに使うことを提案する。木口がこめかみに銃を当てたキャンペーンポスターができ、テレビやラジオに出演する。

野中のかつての同級生の雑誌記者の原田(三上真一郎)は、木口が有名になるのがおもしろくない。雑誌にスキャンダル記事を書いて邪魔をすると、木口の評判はガタ落ちし、保険会社は契約を解除する。

後半はすこし勢いが落ちるが、こめかみに銃をあてて髪を垂らす佐田啓二の苦悩の姿が圧倒的だ。テレビなどで彼のその姿が映るたびにゾクッとする。最後にその巨大ポスターが会社の壁からゆっくり引きづり降ろされる場面が心に残る。

この映画は大島の『日本の夜と霧』と同時封切りで、大島作品の政治性ゆえに4日で公開が打ち切られた。確かに大島の映画に比べると地味だが、増村保造を思わせる資本主義やマスコミに切り込む姿勢は、学生運動の内幕を描いた大島よりもある意味で正面から社会に立ち向かっている。

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