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2018年1月10日 (水)

『嘘八百』がピンと来なかった

最近予告編を見て、一番「見たい」と思ったのが武正晴監督の『嘘八百』。中井貴一と佐々木蔵之介の掛け合いがおもしろそうに見えた。この監督は『百年の恋』がなかなかだったし。そこで公開数日後に劇場に行った。

ところがこれがピンと来なかった。確かにさえない骨董屋を演じる中井貴一は抜群にうまい。しかし物語にリアリティがなさ過ぎるし、ふんだんに盛り込まれたギャグがどうも笑えなかった。

自分が美術に詳しいということはある。展覧会の仕切り屋をやっていたので、美術史よりも裏の事情に通じている。まず大前提として、16世紀の長次郎の黒焼茶碗を今の時代に真似て作ったからといって、古美術商たちのクロウトを誤魔化すことは難しいだろう。

焼き物の世界は贋作が多いのは事実で、江戸時代には「写し」と呼んで長次郎や光悦をまねた陶芸家が評価されていた。しかしそれらは数十年後に作ったもので、まだ製法も土も伝わっていたはずだし300年もたっている。最近作ったものは一瞬でバレるだろう。

そして古物商が集まる市場に、文化庁の部長が地元の博物館学芸員を連れて見に来ることも考えにくい。運慶が海外のオークションで14億円になった話があったが(これは事実で、真如苑が買って東京国立博物館に寄託)、だからといって文化庁は動けないし、動かない。

こんなことは別にしても、中井貴一演じる骨董商小池が金持ちの蔵の調査にバカ娘を連れてゆくのもよく意味がわからない。さらにそこで応対する佐々木蔵之介演じる野田が、実は落ちぶれた陶芸家で、バイトで金持ちの家の管理をしていたという設定にも無理がある。

どんなボケた金持ちでも、先祖代々の宝物がある蔵の管理を怪しげなバイトに任せることはないだろうし、バイトが勝手に売り払うこともない。その後の小池の娘と野田のオタク息子が恋に落ちる展開も、野田の妻が出てゆく流れもついていけなかった。

ところが場内はかなり盛り上がっていた。たぶん私がダメだったのは、最初から「違う」と思ってあら捜しを始めたからかもしれない。

ところで隣にいた40代の太った女性は10代後半の娘と来ていたが、猛烈にポプコーンを食べていたかと思うと鼾をかき始めた。終わったら「全然わからなかった」「だって寝てたじゃない」という会話。こういう母娘まで動員できたのだから、宣伝は成功していたのではないか。

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