『シェイプ・オブ・ウォーター』の愛おしさ
昨年ベネチアで見ていたが、その時大好きだったので、3月1日公開のギレルモ・デル・トロ監督『シェイプ・オブ・ウォーター』の試写を見に行った。ベネチアで金獅子賞を撮った時には嬉しかったが、今度日本語字幕付きで改めて見直して、本当に愛おしくなる傑作だと思った。
何が良かったかと言えば、1960年頃のアメリカを濃厚に漂わせながらも、現代にも通じる恋愛ファンタジーとして作った点だろう。
まず背景として東西冷戦がある。主人公のイライザ(サリー・ホーキンス)は航空宇宙研究センタ―の夜勤が仕事だ。夜の11時にアパートを出て、12時から勤務するというのが秘密めいている。そこには不思議な生き物が運び込まれ、イライザはそのモンスターと仲良くなる。
ここで一挙にSF映画になる。ダグ・ジョーンズ演じるモンスターは人間の大きさでカエルのようなエラがついているが、妙に可愛らしい。最近のCGを駆使したクリエ―チャーではなく、あくまで着ぐるみのようで60年代っぽい。
この生き物を運び込んだホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)は実はソ連のスパイで、ソ連にアメリカの宇宙開発の情報を流しているというのも冷戦時代らしい。彼はソ連に裏切られるが、あくまでモンスターを守ろうとする。
このモンスターを殺して解剖をすべきだ主張するのが軍人のストリックランド(マイケル・ストリックランド)。イライザはモンスターを連れ出すが、ストリックランドはその行方を突き止めようとする。後半の雨の中の刑事のような追跡は、まるでフィルムノワールのよう。フィルムノワールに特徴的なナレーションも冒頭と終わりにあったし。
さらにイライザが歌いながらモンスターと踊るシーンまであって、もう往年のミュージカル。このシーンは白黒で撮られているが、全体は青や緑やグレーを基調に抑えられている。
だからイライザがモンスターと愛し合った後に真っ赤なドレスを着たり、赤いヘアバンドをするのが目立つ。そもそも口のきけないイライザがモンスターに手話を教えて次第に仲良くなるというストーリーが何ともファンタジー。
SFでフィルムノワールでミュージカルで恋愛ファンタジー。まさにギレルモ・デル・トロ以外に誰にも作れない映画だろう。ぜひアカデミー賞を総なめにして欲しい。実はほぼ同じ内容の文章を『キネ旬』の新年号に書いたが、それはそれ。
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