『ゴッホ 最期の手紙』のユニークさ
昨年はスクリーンで219本を見た。そのうち試写と映画祭がたぶん100本を超すだろうが、大学の授業でDVDやブルーレイをスクリーンで見たものは含んでいない。年末最後に映画館で見たのは、『ゴッホ~最期の手紙』。
予告編でゴッホの絵の中の人々が動き出す瞬間を見ただけで、やられてしまった。あの独特のタッチの極彩色の絵がアニメのように動き出すと思っただけで見たくなった。
劇場で見た感想を言うと、私にとって見る価値はあったが、映画としての出来は中くらいというところ。映画はゴッホの死後、彼が弟テオに宛てた手紙を郵便配達人ルーランの息子アルマンがパリに住むテオに届けようとする場面から始まる。
そしてパリでテオの死を知ったアルマンは南仏に戻り、ゴッホに近かった人々を訪ね、その死の謎を解こうとする。映画はそこから生まれるいくつもの事実をサスペンスタッチで見せる。実は私にはその作りがちょっと煩わしかった。
そのうえ、死後の現在がカラーで油絵のタッチで描かれているのに比べたら、人々の記憶の部分はすべて白黒でタッチも細やかでない。当然ながらゴッホはいつも白黒でしか出てこない。
そしてそのサスペンスが今一つ。なんだかよくある『羅生門』的な感じで、食い違う証言が続く。彼の死に至る数週間のドラマを正面から克明に描いたものを見たかったのに。
それでも主人公の父親の郵便配達人、パリの画材屋のタンギー爺さん、医師ガシェとその妻や娘、宿屋の娘などが出てくるたびに、ゴッホの絵を思い出して心が躍った。とくに後半にガシェが出てきた時はドキリとした。黄色っぽい夜のカフェや人々、黄色い太陽、太いタッチで描かれた森や山、そんな背景が動くのを見ながら、何とも嬉しかった。
動く人々の表現は、基本的には昔ならロトスコープと呼んだ、実写をもとにアニメを作る手法で作られている。そこに6万枚を超す新たに描かれた絵を1秒間に12枚ずつ合成して動きを出している。実際には94点の絵画をオリジナルに近い形で使い、31点を部分的に引用したらしい。
100人を超す画家に1年間かけて6万枚以上の絵を描かせただけの迫力と魅力があったが、壮大な浪費という気もした。しかしこの映画を見た後は、本物のゴッホの絵を見ても動いて見えるのではないか。
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