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2018年1月 6日 (土)

『否定と肯定』の現代性

今年最初に劇場で見たのはミック・ジャクソン監督の『否定と肯定』。その驚くほど硬い題名が気になったし(原題はDenial=否定)、知り合いがおもしろかったとFBで書いていた。

結果は予想通り。いかにもBBC製作らしい良心的で丁寧に作られたドラマで、傑作というたぐいのものではないが十分に楽しめた。それより何より、極めて現代的なテーマなのであらゆる人に見て欲しいと思った。

映画は、1990年代後半から2000年にかけて実際に英国で起きた裁判をドラマ化したものだ。アメリカの女性歴史学者リップシタット教授は、「ホロコーストの真実」という本を書いて、ヒトラー崇拝者の歴史家アーヴィングに名誉棄損で訴えられる。「ホロコーストはなかった」という彼の主張が否定されていたから。

そんな訴えは話にならないと思うが、英国の裁判制度では名誉棄損の場合は立証責任が被告の側にあるという。リップシュタットは周囲の反対を押し切って裁判で自らの弁護をすることを選んだ。

そこからは裁判劇で、有能な英国の弁護士たちが被告や収容所の生存者を証人に呼ばず、アーヴィングの論理の過ちを冷静に突いてゆく。結果はリップシュタットが勝利するが、この映画のおもしろいところは、そうなるとは限らないと思わせる点。

裁判の序盤ではアーヴィングがガス室証言の矛盾を突き、翌日の新聞にはその内容が躍る。まさかと思うが、考えてみたらよくあることだ。パンフで憲法学者の木村草太氏は、メディアの「両論併記」による問題として、集団的自衛権行使容認の合憲性の例を挙げている。

憲法学者の見解は違憲9対合憲1だったが、「1対1の割合で「両論併記」するメディアも多かった。議論の質や比率を無視した「両論併記」は、公正でも中立でも誠実でもない」と木村氏はメディアを批判する。

この映画のもう一つのポイントは、主演を演じるレイチェル・ワイズの「内なる良心の声に従う」というアメリカ的な原則が英国では通用しないこと。それに対してクールに戦略を練ってあくまで彼女に発言をさせずにすます英国の弁護団が頼もしい。

英国では裁判官や弁護士が法廷でカツラを被るというのも、初めて知った。カツラのランプトン弁護士を演じるトム・ウィルキンソンが渋かったし、実は原告のアーヴィングを演じたティモシー・スポールがいかにもの右翼オヤジを演じて抜群にうまかった。

南京大虐殺とか朝鮮人慰安婦とか、あるいは9.11までなかったという人が実際にたくさんいる現在、ぜひ見ておくべき映画だと思う。

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