カッコいい早川雪洲
フィルムセンターの「発掘された映画たち2018」で早川雪洲主演の『男一匹の意地』(コリン・キャンベル監督、1921年)を見た。何と旧ユーゴのセルビアのアーカイブで見つかったものを、日本のイマジカでデジタル復元したもの。
私はなぜか早川雪洲に興味があって、彼のサイレント期の出演作はアメリカやフランスからDVDを何本も買っているが、この映画は見たことがなかった。早川は1918年に自らの制作プロダクションを作るが、この映画はそれを「ハヤカワ・フューチャー・プレイ」と改めた後に作られている。
何と字幕もすべてセルビア語(ZAGREB FILM AURORAのロゴ入り)で、そこに日本語字幕がつく。物語は、早川演じる中国人ツーウォンが、アメリカに留学して幾多の苦難を経て愛する女性ワンインと結ばれるというもの。中国人の多くを日本人が演じるが、日本人の役はない。
『トング・マン』もそうだったが、早川は自ら中国人を演じ、中国社会を描くことも多かったようだ。たぶん日本人よりアメリカでなじみやすかったし、『チート』のように日本人の描き方がおかしいと在米日本人に非難されることもなく、自由にアメリカ人の偏見に沿った中国人を描けたからかもしれない。
映画は金持ちの息子ツーウォンが、中国で豊かな暮らしをしている場面で始まる。そこで恋人のワンインに会うが、親戚からは身分の近いヤエと結婚するように言われている。ツーウォンは4年間の米国留学に旅立ち、無事卒業を迎える。
その間、親戚は邪魔なワンインを米国に売り飛ばしていた。サンフランシスコの怪しげな中国人街では、ワンインをセリにかけており、ギャングのボスのロー・チャンボンが5千ドルで買おうとする。ところが通りがかったツーウォンはワンインだと気付き、1万ドルで買う。
1万ドルを稼ぐために、ツーウォンは皿洗いをして働く。ようやく小さな小物屋を持つようになり、競馬で1万ドルを当てる。ワンインを迎えに行くと、そこにはチャンボンの手が回っていた。ツーウァンはチャンボンやその一味を何とか倒し、ワイニンを救い出す。
ツーウァンはワンインと中国行きの船に乗ろうとするが、電話ボックスでチャンボンに殺されそうになる。何とか切り抜けて無事に船は出る。
とにかく早川雪洲がカッコいい。クロース・アップと言ってもバストショットだが、彼だけ特別な照明が当たり、白い肌が輝く。背が少し低いのもいい。柔道の技を使って相手を次々になぎ倒す。
一番の驚きは、ワンインを白人女性が演じていることだろう。「マチネ・アイドル」としてアメリカで大人気だった早川が白人を好きになる方がウケたのだろうか。あるいはグリフィスの『散りゆく花』の中国人青年を白人が演じていたように、当時は早川のようなスターを除くとメインにはアジア人は起用できなかったのか。確かに危険で猥雑な中国人街は『散りゆく花』を思わせる。
早川雪洲のサイレント映画を、もっともっと見たい。
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