« 南方熊楠の驚異的生涯 | トップページ | 留学生について考える »

2018年2月11日 (日)

世界のヌーヴェル・ヴァーグを追って:オルミ

イタリア映画史に「ヌーヴェルヴァーグ」的な動きがあったのかと言うと、それは疑わしい。何しろ共に1906年生まれのロッセリーニとヴィスコンティがいて、ネオレアリズモでイタリアのみならず世界に影響を与えたアヴァンギャルドだったから。彼らは小津(03年生まれ)や成瀬(05年生まれ)の世代だ。

その下には1912年生まれのアントニオーニがいて、『情事』(60)以降は「愛の不可能性」を追求する。20年生まれのフェリーニは『甘い生活』(60)以降、夢と無意識の表象を始める。22年生まれのパゾリーニは『アッカトーネ』(60)などの最下層を描くリアリズムから象徴的表現へ転じてゆく。

その後には、39年生まれのベロッキオと41年生まれのベルトルッチがフランスのヌーヴェル・ヴァーグの強い影響下で活躍する。考えてみたら、ゴダールは30年、トリュフォーは32年生まれで、フランスのヌーヴェルヴァーグは1930年前後の生まれが中心だ。

1930年に生まれたら1960年に30歳となり、いろいろな意味で戦後の反抗期には一番向いている。イタリアにはその世代がほとんどいないが、唯一の存在が1931年生まれのエルマンノ・オルミではないか。

前置きが長くなったが、彼の2作目の『就職』(61)をたぶん30数年ぶりに見て、驚いた。アメリカから買ったDVDだが、これこそがアニエス・ヴァルダの『5時から7時までのクレオ』やトリュフォーの『大人はわかってくれない』に近い、等身大で若者の日常を描く作品だと思った。

ミラノ郊外に住む青年が朝起きるところから映画は始まる。そして彼は電車に乗ってミラノの大会社の入社試験を受けに行き、合格する。同じ試験を受けた女性と仲良くなり、別々の部署で仕事を始める。それだけの話だが、見ていて何とも懐かしい感じの愛すべき作品だ。

彼が試験の待合室で見る20人を超す志願者の顔つきや動作は、ほんとうにおかしい。それ以上にびっくりなのが、就職した後の年配の会社員たちの奇妙な行動の数々。自分が就職した頃を思い出した。会社とは本当にヘンなところだ。

そして主人公が巡り合う女性マガリが輝いている。2人が話し合うまでの視線の交差は、見ていて恥ずかしくなるほど新鮮だ。彼女が2年後にオルミと結婚していたことを、今回ボーナス映像で監督インタビューを見て知った。

技術的に見ると、ヌーヴェルヴァーグとの共通点は自然光による撮影だろう。会社の中にしてもミラノの街中にしても、時おり暗くてよく見えない時もあるが、いかにもそのままの光景が内容にピッタリだ。

パワー満載の戦後イタリア映画史の中で、実に地味だがキラリと輝く小品だと思う。

|

« 南方熊楠の驚異的生涯 | トップページ | 留学生について考える »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/66370719

この記事へのトラックバック一覧です: 世界のヌーヴェル・ヴァーグを追って:オルミ:

« 南方熊楠の驚異的生涯 | トップページ | 留学生について考える »