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2018年2月 6日 (火)

『羊の木』の微妙さ

吉田大八監督の新作『羊の木』を劇場で見た。試写状が来た時はどんなにおもしろいだろうと期待していたが、時間が合わなかった。ならば映画館でと楽しみに出かけたが、私にはちょっと微妙な出来具合だった。

おもしろそうと思ったのは、何と言ってもその設定。「国家の秘密プロジェクトである港町にやってきた6人の「元殺人犯」。そしてある事件が起きた――」というキャッチを読むだけで、惹かれた。ましてやそれを『紙の月』や『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督がどう料理するのかと思った。

さらに6人が曲者揃い。松田龍平、田中泯、北村一輝、市川実日子などが元殺人犯で田舎町に同時にそろりとやってきたら、いったい何が起こるのかと思う。

主人公の市役所員・月末を演じるのは錦戸亮で、彼が役所の課長の命を受けて6人を新幹線の駅や空港などに別々に迎えに行くシーンから映画は始まる。6人とも明らかに「何かがある」感じだが、なかなか何も始まらない。

映画の真ん中ほどで、町の夏祭(のろろ祭)が始まる。ここでようやく何かが始まるかと思うけど、大したことはなかった。それから後半は松田龍平がサイコパスになって、殺人を重ねるところに落ち着く。

終盤に関わるのは松田に加えて錦戸亮と北村一輝だけなのが、もったいない。田中泯も市川実日子もほかの2人も実にいい味を出していたのだが、彼らがもつれあうことはない。

それよりもっと大事なのは、「国家の秘密プロジェクト」のはずが、一向に国家どころか市長も出てこないこと。背後には政治の闇があって、それらの一部が暴かれるのかと期待したが、単なる気の狂った松田龍平だけで終わってしまった。

松田龍平の無垢で無謀な暴力性は、黒沢清監督の『散歩する侵略者』から地続きで歩いてきた感じで抜群だ。撮影は実に丁寧だし、そのほかの俳優たちも十分に狂気をはらんでいたので、もっともっと爆発させて欲しかった。

吉田監督は、去年の『美しい星』でも難しい題材をよく映画にしていたと思う。だがその前の『紙の月』や『桐島、部活やめるってよ』に比べると破壊的な感じが抑えられていた。今回はさらに不発だったのではないか。試写でなく映画館で見ると、やはり自由に意見が言える。

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