裕仁皇太子の渡欧映画を見る
フィルムセンターの特集「発掘された映画たち2018」で、裕仁皇太子(後の昭和天皇)の1921年の渡欧映画を2本見た。共に大阪毎日新聞社の製作で『皇太子渡欧映画 総集編(仮題)』(76分)と『東宮殿下御外遊 実況 大正十年』(6分)。
90分弱の全く無音の映画を久しぶりに見たが、これが実におもしろかった。長い方の前者は、出発前、イギリス、フランス、オランダと回って、帰国して京都御所行啓と上賀茂神社参拝までが出てくる。3月3日から9月3日までのちょうど6か月の旅行だ。
大阪毎日新聞製作だが、冒頭の国内のシーンには松竹キネマのマークが出てくるし、ヨーロッパではあちこちの場面説明でゴーモンのロゴが見える。全体を通してみて一番驚くのは、皇太子が実にさまざまな服装で出てくることだろう。
軍服と礼服が多いが、それもいろいろある。礼服だとフロックコートを着て山高帽をかぶっている時もあれば、燕尾服もあり、背広に近い時もある。シャツとネクタイは襟を立てるモーニングパターンで、たぶん蝶ネクタイや普通のネクタイはなかった。戦地の訪問や閲兵式では軍服だが、これもいろいろあった。
イギリスで渓流で魚釣りをしていた時は、狩猟服に近かったがかなり明るい色だった。白黒なので色はわからないが、周りが真っ黒の服なのに比して明るいツイードのようなものを着ていた。イギリス人はスコットランド風のスカート。
とにかくよく笑う。マンチェスター運河では映画の撮影カメラを扱い、アムステルダムでは動物園を見学する。いわゆる観光地は少なく、エッフェル塔の上からシャイヨー宮やパリを眺めたショットくらいか。実に楽しそう。そして北仏でドイツとの旧戦地を歩くが、さすがに笑わない。この場面が長いが、彼の戦争観に影響を与えたのだろうか。
やたらに出てくるのが、握手をしているシーン。車や馬車が着いて、建物に入る前と出る時に明るく握手をする。それにぞろぞろとついて回る日本人と外国人。たぶん有名な政治家などもいたのだろうが、わからない。
帰国したとたんに笑顔がなくなる。というよりアップのショットが少なくなる。後半で驚いたのは、迎えの東京駅で皇族の女性たち10名ほどが着飾って現れた時。この映画では女性はそれまでほぼ写っていない。それが洋装のドレスのような女性たちが集団で突然現れて、娼婦でも呼んだのかと思ってしまった。
上映前と後に客員研究員の紙屋牧子さんの解説があったが、これまたおもしろい。渡欧中の6月9日に渡欧映画の野外上映が日比谷公園で開かれて10万人の市民が見たらしい。当時は天皇は馬車に乗った姿、皇太子は馬車か人力車に乗った姿しか撮影できなかったというから、スタスタ歩いて笑う姿の衝撃は想像にあまりある。
私は昨年末には学生と天皇の映画祭もやったし、実は天皇が好きなのかもしれない。
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