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2018年2月23日 (金)

『女は二度決断する』の政治性

何といっても、ファティ・アキンは現代ドイツでナンバーワンの監督だと思う。『愛より強く』(2004)のような移民問題を扱った強烈な恋愛ドラマを作るかと思うと、『ソウル・キッチン』(09)のような軽快で楽しいスケッチも作る。

『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)ではトルコ現代史の闇に迫ったかと思うと、『50年後のボクたちは』(17)では中学生たちの冒険を爽やかに描いた。さて次はどう来るかと楽しみに待っていたら、4月14日公開の新作『女は2度決断する』は、とびきり現代的な問題に正面から取り組んだ。

今回は、ネオナチの若い男女にトルコ出身の夫と子供を殺された女性カティア(ダイアン・クルーガー)を描く。映画は3部構成で、1部「家族」は幸せな家族がテロによって不幸のどん底に落ちるさまを見せ、2部「正義」でその後の裁判を描く。3部「海」は裁判後のカティアの行動を追う。

ネオナチの流行がヨーロッパで大きな問題になっているが、この映画はそれをあくまで被害者の立場から静かに描く。テロの後のカティアや家族の悲しみ、裁判闘争の弁護士同志の迫力あるやり取り、そして最後の彼女の「決断」まで、見ていて息をつく間もなく展開する。

そして最後の結論を見て、深いため息をつく。極めて政治的な映画でありながら、丁寧に静謐なドラマを構築することに成功していると思う。見ながらどう展開するのかさっぱり見当がつかず、最後まで驚き通しだった。

映像の強度を一人で支えるダイアン・クルーガーがすばらしい。私はハリウッドの俳優だと思っていたが、ドイツ出身で母国語での映画は初めてという。これが実に自然でその悲しみと怒りがじわじわと迫ってくるので、途中からは彼女がどんな行動を取ろうと支持しようという気になる。

カティアの母親や夫の父親から犯人の父親に至るまで、台詞のあるすべての人々の一言や一瞬の表情が力強い。ここはベテラン監督らしい(といってもまだ今年45歳だが)演出のうまさを見せる。

日本でもネトウヨなどおかしな愛国主義が増えているので、ぜひこの映画は多くの人が見て自分の問題として考えて欲しい。

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コメント

現在のドイツのNO.1監督は? 今ドイツ映画の上映機会・話題は(濃くもフリーな人向けに)限られてて、また、黄金期の様に、ゲルマンorユダヤ系男性と対象を絞り込めない。丁度40年前なら、『アメリカの友人』『アギーレ・神の怒り』を退けて、『季節を売る男』の作者を選べたのに。アキン・アデ・ペツォールト・アルスラン級の人はまだまだいそうだ。個人的にはアンゲラ・シャーネルクだが、これも確信はもてない。時代を撃返し続ける創り手。

投稿: 瀬古誠治 | 2018年2月26日 (月) 16時05分

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