『15時17分、パリ行き』に腰を抜かす
クリント・イーストウッドの新作『15時17分、パリ行き』を劇場で見て、腰を抜かしそうになった。予想外というか、こんなにシンプルで無邪気で、そのうえ感動的でいいのだろうか。そして時間はたったの94分。
新作が、実際に2015年8月に起きた欧州高速鉄道「タリス」のテロ未遂事件を扱っていることや、その事件を救ったアメリカ人3人が実際にその役を演じたことは、もちろん知っていた。しかし、こんな展開になるとは思ってもみなかった。
最初に大きな荷物を持った男が駅に入り、歩く姿を映す。白いパンツに黒い靴だが顔は見えない。これは怪しいと思うが、それから急にオープンカーに乗る3人組の楽しそうなアメリカの若者が写る。そして映画は、何とその3人の少年時代に遡る。
学校に馴染めずに校長室に呼び出されて知り合った3人が、大人になっても試行錯誤している姿が見えてくる。ようやく事故現場に行くかと思ったら、彼らの呑気なヨーロッパ旅行が始まる。ローマ、ベネチア、ベルリン、アムステルダムへと移動するが、その合間に時おり謎の男の動きが挿入される。
「タリス」でのテロとそれに立ち向かう3人のシーンは終盤の10分くらいだろうか。最初はあまりに平凡な3人に魅力は感じなかったが、だんだん彼らの動きが普通の俳優のように見えてくる。そして激しいアクションシーンから救出へ。
最後にフランスのオランド大統領に勲章をもらうニュース映像が出てきた時に、これが現実だったことを急に思い出し、愕然とする。そして涙がどっと溢れてきた。こんなオフィシャルな映像に泣くなんて(最近泣き過ぎ)。
重傷を負った男性も、3人と共に犯人を押さえた男性も、みな本人たちが演じたという。普通過ぎるくらい普通の男たちが、ある使命感を持って育ち、いざという時になすべきことをなす。その勇気がピュアな形で伝わってくる。
アラブ系の犯人については、背景も心理も全く説明しない。ただ平凡な男たちの勇気だけが過去に溯って見せられる。アメリカ中心などと非難する声はありそうだが、映画としてはそれで十分。映画は昔からそんなシンプルなものだったから。全体にちょっとマッチョだが、それも映画そのものが昔から持つ特質の一つでもある。
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