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2018年3月18日 (日)

暗澹たる読書:その(4)『日本軍兵隊』

昨年末に出た吉田裕著『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』を買ったのは、「310万人に及ぶ日本人犠牲者を出した先の大戦。実はその9割が1944年以降と推定される」というオビの言葉を読んだから。これが本当なら大変なことだと思った。

読んでみて、これまた「暗澹たる読書」になった。一言で言うと、早めに降伏していたら、そして日本特有の精神主義がなかったら、戦死者の大半が「無駄死に」せずにすんだことがわかるから。

「日本政府は年次別の戦没者数を公表していない」。なぜか都道府県も同様だが、岩手県だけが公表していて、「岩手県編『援護の記録』によれば、1944年1月以降の戦死者は87.6%という。民間人戦没者約80万人はほぼこの時期なので、全体に敷衍すると1944年1月以降は91%に達する。

あくまで推定の数字だが(アメリカでは自国の戦死者に正確な数字がある)、この本には筆者の言う「絶望的抗戦期」の兵士たちの死の実態が描かれている。まず、「膨大な戦病死と餓死」が挙げられる。

「戦病死者が全戦没者のなかに占める割合は、1944年以降は実に73.5%にもなる」。さらに「現場では病死を戦死にいわば「読み替える」事例があったから」、実際はさらに多い。「病没者のうち純然たる悪疫によるものはその半数以下で、その主体は悪疫を伴う餓死であった」

さらに海没死者が35万人を超える。「日本軍の輸送船の大部分が徴用した貨物船であり、船倉を改造した狭い居住空間に多数の兵員を押し込めた」「沈没の際に全員が脱出することは不可能だった」。その状況で出航前日には「とつぜん発狂者が続出」し、「沈没後に救助された兵士たちの精神状態も深刻だった」

よく知られる「特攻死」は3848人。戦果は正規空母の撃沈はゼロ、輸送船なども含めた「撃沈の合計は47隻に過ぎない」。戦死のうち自殺も多い。硫黄島で生き残った兵士は「敵弾で戦死したと思われるのは30%程度」。残りの6割は自殺、1割は「他殺(おまえが捕虜になるなら殺すというもの)」、1割が事故死という証言を残している。

ガダルカナル島の敗北後の撤収では、3割の生き残りのうち「身動きができない傷病兵は昇汞錠で自殺させた上で、単独歩行の可能な者だけを撤退させる方針である」という記録がある。アッツ島では「万歳突撃に参加できない傷病兵が殺害され、あるいは自決を強要された。以後、離島の守備隊が全滅するたびに同様の悲劇が繰り返される」

さらに兵士同士の強奪や襲撃、人肉食もある。ここまでで第1章が終わるがまだ半分弱。もう読む気が失せるくらいになった。「「兵士の立ち位置」から戦場をとらえ直してみる」という筆者の試みは、十分に伝わってきた。

この新書は昨年12月に出て、もう5刷という。やはり気になる人がいるのだろう。「日本人は実はすごい」式の妙な愛国主義が流行る今、読む価値がある。

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