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2018年3月 5日 (月)

『ラブレス』の荒涼たる世界

4月7日公開のアンドレイ・ズビャギンツェフ監督『ラブレス』を見た。このロシアの監督は、初長編『父、帰る』(03)がベネチアで金獅子賞を取って以来、『ヴェラの祈り』、『エレナの戸惑い』、『裁かれるのは善人のみ』と毎回国際映画祭で話題作を見せてきた。

テーマはいつも現代の愛と家族で、世界のどこにでもあるような現代的な問題にクールに迫り、ロシア特有の背景や雰囲気をうまく絡める。今回はその純度がさらに増したようだ。

この作品は、一流企業で働く夫と美容サロンを経営する妻の不和とその12歳の息子の失踪を描く。まず、最初に出てくる大きな木々の寒々とした光景に心を奪われる。子供は学校から帰ってくるが、家では母親が自宅売却のために家の中を買い手に案内している。

離婚協議中の夫婦は喧嘩ばかり。息子はそれを見て泣き、両親がそれぞれの新しい恋人の家に泊まった夜にいなくなってしまう。どの登場人物にも余裕がない。夫婦は息子を探して妻の母の家に行くが、その母親も悪態をつく。そしてその帰りに、妻は夫に「本当は最初から愛していなかった」と言ってしまう。

暗澹たるドラマに入り込んだかと思うが、中盤で警察があてにならないために夫婦が頼んだボランティアたちの活躍ぶりでトーンが変わる。そのリーダーの男を始めとして彼らの的確な動きに目を奪われる。

しかし彼らが探すのは、背丈ほどもある雑草が生い茂った空き地だったり、雨漏りがして床に水のたまった廃校だったり、いつまでも雪の舞う森の中だったり。何度も今度こそ子供が出てくるかというサスペンスを味わいながら、ロシア的な絶望的な心象風景に舞い込む。

終りに、数年後の夫婦の姿が写る。一見それぞれが幸せになったように見えるが、実は何も変わっていない。雪の降る荒涼とした木々の光景が変わらないように。

元校舎の荒れはてた光景を見ていたら、ズビャギンツェフという監督はタルコフスキーを受け継いでいるのだと思い至った。その荒野は、まるで『ストーカー』や『ノスタルジア』のよう。その人間存在に対する思想的な深さと計算尽くされた画面構成も。必見。

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